「ASD理解」多感覚統合易刺激性

多感覚統合と易刺激性と同時処理|ASD当事者視点の整理

複数の情報を同時に比べようとして迷っている女性のイラスト。ASD当事者の多感覚統合のつまずきと同時処理の負荷をイメージ。 「ASD理解」
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この記事でわかること

  • 多感覚統合(MSI)がどんな仕組みなのか
  • 多感覚統合のつまずきと易刺激性(イライラしやすさ)のつながり
  • ASD当事者として感じる「同時処理の苦手さ」のリアルな体験
  • コミュニケーションやこだわり行動との関係のイメージ
  • 日常で試しやすい「刺激を減らす・整理する」対処のヒント

この記事の結論としては、

多感覚統合がうまくいかないことで同時処理が限界を超え、その結果として易刺激性が強まりやすい、というASD当事者としての体験と理解の整理になります。


はじめに

私の体験をもとに、多感覚統合と易刺激性(反応しやすさ)、そして「同時処理の苦手さ」のつながりを整理してみます。

私は、ひとつひとつなら対応できるのに、同時になると一気に限界を超えるという感覚を、長いあいだうまく言語化できませんでした。

この記事は、その体験を「多感覚統合」というキーワードを入り口にして、なるべくわかりやすく言葉にしてみた試みです。

※当事者視点の整理です。診断や治療を代替できません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。


多感覚統合とは

多感覚統合(multisensory integration, MSI)とは、

  • 視覚
  • 聴覚
  • 触覚
  • 嗅覚
  • 味覚

など、複数の感覚を脳がまとめて処理し、ひとつの体験として認識する仕組みのことだと言われています。

たとえば、次のような場面です。

  • 人の話を、声と口の動きから同時に理解する
  • 歩いているときに、足裏の感覚・視界・周りの音をまとめて捉える

ふだん意識することは少ないですが、その背景ではかなり高度な処理が行われています。

多感覚統合がうまく働いているとき、私たちは周囲の状況を素早く、それなりに正確に把握しやすくなります。


易刺激性とは

易刺激性(irritability)は、小さな刺激でも反応しやすい状態を指す言葉として使われます。

たとえば、次のような特徴が含まれます。

  • ちょっとした音・言葉・出来事に過剰に反応してしまう
  • 気分が安定しにくく、イライラや不安が続きやすい
  • 場合によっては、衝動的・攻撃的な言動が出やすくなる

当事者としての感覚に近づけて言うと、

  • 頭では「自分でも大げさだ」とわかっているのに
  • 身体と心が勝手に反応してしまう

そんなコントロールしづらさを含んだ状態だと感じています。

発達障害や感覚過敏がある人、強いストレス状態にある人などで、こうした状態が出やすいことが報告されています。


多感覚統合のつまずきと易刺激性のつながり

私の感覚で多感覚統合がうまくいかないと感じることは、「ひとつの体験」としてまとまっていないときです。

バラバラの刺激が同時多発で押し寄せてくるように感じます。

感覚過敏と負荷の増大

多感覚統合がスムーズでないと、同時に入ってくる情報をうまく整理しきれず、処理のキャパシティをすぐに超えてしまうようです。

例として、人混みの中を歩く場面を考えてみます。

  • 視覚
    • 人の動き、看板、光
  • 聴覚
    • 人の話し声、アナウンス、雑音
  • 嗅覚
    • 香水、食べ物の匂い
  • 触覚
    • 体がぶつかる感じ、衣服の感覚

これらが「場の雰囲気」として、ひとまとまりに処理されていないと感じます。

これは、別々の刺激が同時に襲ってくるような感覚だと理解しています。

その結果として、

  • 脳内での情報の渋滞(オーバーロード)
  • 脳の過覚醒(常にフルスロットルになっている感覚)

が起こり、ただそこにいるだけでぐったり疲れやすくなると思います。

私は、人とは体をぶつけませんが、手すりなどに体をぶつけやすい傾向があり、これを処理のキャパシティが原因といえば納得できる気がしました。

情動系の活性化(※仮説)

脳の扁桃体や前頭前野は、感覚処理と感情の調整の両方に関わる部位だとされています。

多感覚統合がうまく行かず、刺激が予測しづらい・読めないものとして処理されると、

  • 何が起きているのかよくわからない
  • 次にどんな刺激が来るのか予測できない

という不安が強まり、扁桃体が過剰に反応しやすくなる。

その結果として、怒り・不安・苛立ちといった情動が高まりやすくなる、という説明がされています。

私自身の体感としても、

  • 刺激そのものより、何が起きているのかわからない状態の方がつらい

ということが多く、予測できない感覚そのものが易刺激性に火をつけているように感じます。

ここはあくまで「一般的な脳の説明+当事者としての仮説」です。個々の状態は人によって大きく異なると思います。

ASD当事者の私が思う典型パターン

ASD当事者では、よく次のような組み合わせが見られると言われます。

  • 感覚過敏(刺激に強く反応しやすい)
  • 統合の困難さ(刺激をひとつにまとめるのが難しい)
  • 予測の困難さ(先の展開が読み取りづらい)

その結果として、

  • 多感覚環境で刺激が蓄積する
  • 限界ライン(閾値)を超える
  • 易刺激性として一気に爆発する

というパターンがあると考えてます。

自分の中でもかなり「おなじみの流れ」になっていると感じています。


同時処理の苦手さと日常の場面

私自身、「同時処理の苦手さ」は、日常のいろいろな場面に顔を出します。

  • ひとりの話を落ち着いて聞くのはまだ大丈夫
  • でも、複数人の会話や、話しながら別の作業をする場面が入ると、一気に処理が追いつかなくなる
  • 途中までは平気なのに、急にからだの中で何かが「プツン」と切れたようになる

外から見ると、

  • 急に不機嫌になった
  • 気分屋のように見える

と受け取られることもあるかもしれません。

内側の感覚としては、

  • 同時処理の限界を超えた
  • もうこれ以上は情報を入れられない

という状態になっている、という方が近いです。

もし「あなたの苦手なことを正直にひとつ挙げてください」と言われたら、私は「同時に処理することが苦手です」と答えると思います。


コミュニケーションとの関係

コミュニケーションの難しさも、同時処理の弱さとつながっているのではないかと感じています。

会話の場面では、同時にいろいろな情報が流れ込んできます。

  • 相手の言葉の内容
  • 表情やジェスチャー
  • 声のトーンや速さ
  • その場の空気や文脈 など

こうした情報をリアルタイムで同時処理しながら、

  • 相手はどう考えているのか
  • 自分はどう返すか

を組み立てるのは、私にとってかなり高負荷な作業です。

そのため、

  • 会話のテンポについていけない
  • 空気を読むのが遅れる
  • 心の理論(相手の気持ちや考えを推測する力)の習得が遅れがちになる

といったところに、同時処理の限界が影響しているのではないか、と感じています。

私の個人的な見解ですが、心の理論の生まれつきの特性としては、「対応の苦手さ」と「習得が遅れ」の二つの要素があるように感じています。


こだわり行動との関係

こだわり行動についても、私は次のように感じています(あくまで個人の感想です)。

  • ひとつの情報や興味に集中することで、同時処理の負荷を下げている
  • こだわりがあることで、かろうじて情報の渋滞を避けている面がある

一方で、

  • 複数の選択肢を比較する
  • 状況に応じて柔軟に切り替える

といったことが難しくなりやすく、その結果として、

  • 外からはこだわりが強く見える
  • 融通がきかないと評価される

しかし本人の内側では、

  • 同時処理に耐えきれない
  • だから、ひとつに絞ってやっと成り立たせている

という、必死の自己防衛の側面があるように感じます。

私の感覚では、選ぶ段階まで行っていないような気がしています。


易刺激性への対処のヒント

私が体感として持っている対処のイメージは、「刺激の総量を減らし、同時処理を減らす」ことです。

環境側の刺激を減らす

刺激が多い空間では、次のような工夫が役立つことがありました。

  • ノイズキャンセリングイヤホンを使う
  • なるべく人の少ない時間帯・場所を選ぶ
  • 強い光や匂いが少ない場所を選ぶ

「すべての刺激をゼロにする」というより、「いちばん負担になっている刺激情報を見つけて、それを優先的に減らす」イメージです。

同時処理を減らし、順番にする

会話や作業では、次のような工夫をすると、少し楽になる場面がありました。

  • できるだけ「ひとつのことだけに集中できる状況」を作る
  • 同時に頼まれたことはメモに書き出し、「順番に処理する形」に変える
  • マルチタスクを避け、あえてシングルタスクに寄せる

家の中では、

  • 目に入る情報を減らす(物を減らす・しまう)
  • 複数の音を同時に鳴らさない(テレビとスマホ動画と家族の会話が同時に重ならないようにする)

といったことも、負荷を下げる助けになりました。


まとめ

  • 多感覚統合がうまく働かないと、刺激がまとまらず同時処理の負荷が急上昇しやすい
  • 負荷の蓄積は、扁桃体や自律神経系を通じて「易刺激性(イライラ・不安)」に広がりやすいという説明がある
  • ASD当事者では「感覚過敏+統合の困難さ+予測の難しさ」が重なり、限界を超えると一気に爆発しやすいと感じる
  • 対策のヒントは、「刺激を減らす・整理する」「同時処理を減らし、順番に処理しやすくする」工夫にある
  • 多感覚統合とうまく付き合うことは、「自分の脳の限界ラインを知り、少しでもオーバーロードを防ぐ工夫を重ねていくこと」とも言えそう

ここで書いたのは、あくまで一当事者の体験と理解の整理です。

ただ、こうした小さな言語化が、どこかであなた自身の感覚や困りごとを整理するヒントになればうれしいです。