この記事の結論
弱い中枢性統合(WCC)は、ざっくり言うと「情報の入り口(見え方・まとまり方)」を説明する仮説です。
一方で、
- 「動けない」
- 「疲れる」
といった出口の現象までを、そのまま説明する理論ではありません。
※この記事は、ASD当事者の方と、身近で関わる家族・支援者の方の両方に向けて、WCC(弱い中枢性統合)の「説明できる範囲・できない範囲」を個人的に整理する目的で書いています。
読み終えると、困りごとを「見え方の問題」と「動き方の問題」に切り分ける視点が得られると思います。
はじめに
「説明を聞けば意味は分かる、でもその場の空気がつかめない」
ASD当事者の中には、こうした感覚を持つ方がいるかもしれません。
「言葉の意味」はよく見えているのに、「言葉とその場の全体像」がつかめない感覚です。
この現象を説明する仮説の一つとして、「弱い中枢性統合(WCC)」があります。
ただし、困りごとのすべてをWCCだけで説明しようとすると、「動けないこと」や「疲れやすさ」の説明がつかず、モヤモヤする可能性があります。
この記事では、WCCの理論としての「射程(説明できる範囲)」と「限界(説明の範囲外)」を整理し、困りごとを切り分けるための視点を置きます。
WCCの簡単な説明
弱い中枢性統合(WCC)とは、次のような考え方です。
- 複数の情報を「一つの集合体」として、「自然にまとめ上げる働き」が弱い
- 「複数の情報の中の一つに処理が強く優先されている」ことで、「一つの集合体へのまとめ上げる働き」が弱い
似たような説明をしていますが、ここでのポイントは2つです。
- 「できない」わけではない
- WCCは「全体像が理解できない」といった話ではなく、「自動的な統合が弱い」「細部が先に立つ」という説明がされています。
- 全体像より「細部側を扱う」ことが多い
- 非WCCの場合、無意識に「全体を読む」場面であっても、WCC当事者では「細部を読む」傾向があると説明されています。
※現在は能力というより、細部処理を選好する認知スタイル(処理の癖)として扱われていると思います。
弱い中枢性統合(WCC)のできる説明・できない説明
ここから先は、WCCが担当している領域(入口)と、混ざりやすい領域(出口)を分けます。
WCCが「説明している」範囲(入口)
WCCが主に担当しているのは、知覚から初期の意味づけ(入力がどうまとまって入るか)です。
ここで言う入口は、「感覚入力そのもの」だけではなく、入力された情報が自動で文脈に統合される度合い(初期の意味づけ)までを含めて置きます。
体感に落とすと、次のような形になります。
全体の印象より、細部の事実が先に入ってくる
例:「部屋が散らかっている」という印象より、「無くしたペンが見つかった」という事実が先に見える。
全体像が「後から」立ち上がる
例:パズルのピースの場合、「どこに当てはまるか」が先行し、それが「何の絵」で「どこに当てはまるのか」、といった全体の把握が遅れる。
言葉の裏(含み)が直感で入らず、経験からの推測が必要になる
例:言葉通りの意味が先に飛び込み、そこから論理的に組み立てる。
場面例:冗談の「ノリ」より発言の意味が先に入り、後から「この場は軽いノリだったのか」を推測する。
ここで重要なのは、これが「注意の向き(何に注目したか)」以前の、最初に入ってくるパッケージが細部寄りになりやすい、という話だという点です。
WCCが「説明していない」範囲(出口)
ここが混ざりやすく、誤解を生みやすいポイントです。
WCCという枠組み「だけ」では、次のことを説明し切るのは難しいと思います。
- なぜ始められないのか(着手・始動の重さ)
- なぜ続けられないのか(維持・切り替えの難しさ)
- なぜ極端に疲れるのか(感覚・易疲労性)
日常の体験では、
- 「全体がつかめない(入口)」
- 「判断が遅れる」
- 「動けない(出口)」
が一続きに起きるため、すべてがWCCに見えるかもしれません。
しかし理論の射程としては、WCCが説明しているのはあくまで入口(見え方・まとまり方)まで、と私は整理しています。
そこから先の「動き方」や「消耗」は、別の説明枠組みで整理したほうが混乱が減ることがあると思います。
出口側でよく混ざる要因(WCCの外側に置きやすいもの)
※ここからはWCCそのものではなく、WCCの射程外の方が説明しやすい話題の例です。
動けない・切り替えられない
これはWCCではなく、実行機能などの枠組みで整理したほうが腑に落ちる場合があります。
またASD当事者コミュニティ(海外)では、開始・停止・切替の難しさを指して「自閉性慣性(オーティスティック・イナーシャ)」のように呼ばれることがあります。
疲労・消耗
入口が細部寄りだと、全体像を後から組み上げる場面が増え、手動処理が長引くことがあります。
それに加えて、感覚過敏や、周囲に合わせようとする過剰適応(マスキング)など、別の要因が消耗を増やすことがあります。
「わかっているのに動けない」という悩みは、見え方の問題というより、切り替えや実行機能の問題として整理したほうが分かりやすいことがあります。
WCCを入口の話とすると
ここまでを踏まえると、自分が今困っていることに対して、やるべき切り分けを入口と出口にするとわかりやすいかもしれません。
状況がつかめない(入口の問題)
WCC由来の困りごととして説明される領域です。
- 情報を整理してもらう
- 先に枠組み(結論)を聞く
- 図解してもらう
といった、代わりに「まとめてもらう」工夫が役立つことがあります。
状況はわかるのに動けない(出口の問題)
実行機能や自閉性慣性など、WCCとは別の領域として考えた方がいいかもしれません。
- 最初の一歩のきっかけを作る
- スモールステップ化する
- 時間を区切る
といった、行動のエンジン側(実行)への工夫になると思われます。
この2つを分けるだけで、「ASD」や「WCC」とまとめるのではなく、「今は入口で詰まっているのか、出口で詰まっているのか」を整理できるかもしれません。
まとめ
弱い中枢性統合(WCC)は、ASDの人の「世界の見え方の入口」を理解するための地図として使えます。
ただし、その地図に行動(実行)や消耗(疲労)まで全部を背負わせると、説明がかえって混線しやすくなります。
- WCCの説明は、入口(見え方・まとまり方)まで
- 入口の先は、別の地図(実行機能や切り替え、慣性、疲労要因など)
この線引きを先に持っておくことで、「WCCの理論だけでは説明しきれないモヤモヤ」を切り分けやすくなると思っています。
※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。

