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この記事でわかること
- WCC(弱い中枢性統合)仮説とは何か
- EPF(強化知覚機能)仮説とは何か
- ASD(自閉スペクトラム症)の特性をどのように説明しているか
- 両者の違いや共通点
※本記事は診断や治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。
はじめに
自閉スペクトラム症(ASD)の特性は、一言でまとめるのが難しいものです。
ある人は「細かい部分に気づきやすい」と言い、別の人は「(全体の)空気を読むのが苦手」と説明することもあります。
この不思議な特徴を理解しようとして、研究者たちはいくつかの仮説を提唱してきました。
代表的なのが、WCC(弱い中枢性統合)仮説とEPF(強化知覚機能)仮説です。
両方ともASDを理解するうえで大切な考え方ですが、注目しているポイントが少しずつ違います。
WCC(弱い中枢性統合)仮説とは?
WCC仮説は、心理学者Uta Frithらによって提唱された理論です。
ポイント
- 全体をまとめる力(統合性)が弱いとされる
- 個々の要素や細部に強い注意が向きやすい
- 文脈の把握や「大きな流れ」の理解が難しくなる場合がある
日常での例
- 会話の冗談や比喩を「そのままの意味」で受け取りやすい
- 写真を見たときに全体像ではなく「小さな模様」や「一部の形」に注目してしまう
- 作業の流れを一気に理解するよりも、手順を一つひとつ追うことが多い
この仮説は、ASDの「全体をまとめるのが苦手」という側面を説明する枠組みとしてよく取り上げられます。
EPF(強化知覚機能)仮説とは?
「EPF仮説(Enhanced Perceptual Functioning)」は、Laurent Mottronらによって2000年代に提唱された理論です。
ポイント
- ASDの人は「感覚・知覚レベルの働きが強化されている」
- 普通なら気づかないような小さな違いや細部に敏感
- 全体が見えにくいというより、細部の情報が際立って見えてしまう
日常での例
- 蛍光灯のチラつきや時計の秒針の音など、他の人が気にしない刺激に敏感
- デザインや文字のわずかな違いをすぐに見分けられる
- 音楽の細かいリズムや音程の差に気づきやすい
EPFは「弱さの仮説」ではなく、知覚処理の「強さ」に注目している点が特徴です。
WCCとEPFの違いと共通点
両者を比べると、説明している焦点が少し異なることがわかります。
仮説 | 注目点 | 説明の仕方 |
---|---|---|
WCC仮説 | 情報を統合する力 | 全体よりも部分に偏って処理しやすい(全体把握が弱い) |
EPF仮説 | 知覚の強さ | 感覚や細部が強調され、全体が相対的に見えにくい |
どちらも「細かい部分に目が行きやすい」点を説明しています。違いは、「弱さ」として捉えるか、「強さ」として捉えるかです。研究の世界でも、両方の仮説は競合というより「補い合う視点」として理解されています。
ASD当事者の気づき
私自身、街を歩いていると、まず注意が向いてしまうのは風景の全体ではなく「看板の文字」や「会話などの音が聞こえる方向」といった細かい刺激です。
そのため、周りの人が「街並みがきれいだね」と言っていても、私は細部に意識がとらわれてしまい、風景を「全体として楽しむ」ことが難しいと感じることがあります。
この感覚は、WCC仮説の「全体をまとめにくい」という説明にも、EPF仮説の「感覚が強く働きすぎる」という見方にも当てはまると感じます。
また、人に道を説明するときも「駅前の広場」といった全体を示す表現より、「自販機がある角」「青い看板の隣」といった細かい特徴で伝えてしまい、結果的に相手にはわかりにくいことがあります。
こうした「細部に目が行きすぎる」傾向は、私の生活やコミュニケーションの中で小さなズレを生み出しているのかもしれません。
まとめ
- WCC仮説は「全体をまとめる力が弱い」という視点から説明
- EPF仮説は「感覚処理が強化されている」という視点から説明
- どちらも「細部への注目の強さ」を示しているが、捉え方の方向性が異なる
日常の中で、全体像よりも細かい部分に意識が向いてしまうこと、それはWCC的な「まとめにくさ」、それともEPF的な「感覚の強さ」かもしれません。