「ASD理解」コミュニケーション・心の理論

ASD当事者が語る「心の理論の解説」と「対策をして感じたこと」

ASD(自閉スペクトラム症)の心の理論を表すイラスト。他者の心を推測するコミュニケーションの場面 「ASD理解」
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この記事でわかること

  • 心の理論とはどういう能力なのか
  • サリー・アン課題などの代表的なテスト
  • 心の理論の特徴と「0次」「1次」「2次」の段階の違い
  • ASD当事者が対策をして感じたこと

この記事の結論は、

心の理論の特徴の整理と、苦手さは「空気が読めない性格」ではなく情報処理のスタイルの違いであり、他者の心を完璧に推測するより「言葉で明確に伝え合う」工夫が有効である、という整理です。


はじめに

「あの人は今、どう思っているんだろう?」

こんなふうに相手の気持ちを想像することは、日常のコミュニケーションで自然に行われています。

この「他者の心を推測する力」を、心理学では「心の理論(Theory of Mind)」と呼びます。

自閉スペクトラム症(ASD)の診断などを受け、特徴を調べたりする過程で「心の理論ってなに?」と戸惑った経験はありませんか。

この記事では当事者視点から、心の理論とは何か、そして実際にどう向き合えばよいのかをわかりやすく整理していきます。

※診断や治療については、必要に応じて医師や専門家にご相談ください。


心の理論とは?

「心の理論(Theory of Mind)」とは、「自分や他者にはそれぞれ独自の考えや感情、意図がある」と理解し、推測する力のことです。

この力があることで、私たちは次のようなことができます。

  • 相手が驚いているから「知らない情報を伝えたんだな」と推測する
  • 相手が黙っているから「怒っているのかも」と想像する
  • 相手の立場に立って「この言い方は傷つくかも」と考える

つまり、日常生活のやり取りの多くは、心の理論に支えられているということです。


発達障害と心の理論の関係

心の理論の発達は、主に自閉スペクトラム症(ASD)の文脈で語られることが多い概念だと私は理解しています。

しかし、他の発達障害でも、結果的に似たようなコミュニケーションの困難が現れることがあるとも知りました。

ここでは、当事者として私が実感している「見落とし・衝動性」の側面に絞って説明します。

ASD(自閉スペクトラム症)の場合

ASDでは、心の理論の発達に特徴が見られることが知られています。

  • 他者の視点を推測することに時間がかかる
  • 複数人の視点が絡むと情報処理が難しくなる
  • 「暗黙の了解」や「空気を読む」ことに困難を感じやすい

ただし、これは「できない」のではなく、処理の仕方やペースに違いがあると考えられています。

見落とし・衝動性などの場合

見落とし・衝動性などの場合では、心の理論そのものより、次のような要因が影響することがあります。

  • 衝動性や状況の見落としにより、相手の反応を待たずに行動してしまう
  • 注意の切り替えが難しく、または理解が難しく、相手の表情変化に気づきにくい
  • 会話中に別のことを考えたり、全体知識の把握が弱く、相手の意図を取りこぼす

これらは、心の理論そのものの問題というよりも、注意配分や理解のタイミングの問題が影響して表面化していると私は理解しています。

そのため、見た目は似た行動でも、背景にある認知の理由は人によって異なる場合があると感じています。

また、診断名や特性の強弱、その他の要因が複雑に重なることも多く、短時間で明確に分類するのは難しいことが多いとも感じています。


サリー・アン課題について

ASD(自閉スペクトラム症)に触れたことがある人なら、一度は耳にしたことがある有名なテストが「サリー・アン課題」です。

ざっくり言うと、こういう設定です。

  1. サリーがビー玉をかごに入れて去る
  2. サリーが留守の間に、アンがビー玉を自分の箱へ移す
  3. サリーが戻ってきたとき、サリーはどこを探すか?

この問いかけは、サリーの「思い込み/信念」を推測できるかを確認する課題の代表例です。

今の私自身は、この課題を解くことはできます。

ただし、その解き方には「癖」があります。

「先にサリーの視点を拾い、その後にアンの視点を拾う」というように、順番に処理をします。

一度に複数の情報を取り扱うことが苦手な特徴があるのかもしれません。


「0次」「1次」「2次」の段階と誤信念課題

心の理論は、発達段階によって3つのレベルに分けて考えられています。

「誤信念課題」は、「本人が持っている考えが、現実と食い違っている状態を推測できるか」を見るものです。

「0~2次」は、心の理論の「段階の考え方」であり、誤信念課題はそのうち特に「1次」「2次」を調べる代表的なテストです。

以下は、誤信念課題の説明する「誤った信念」ではなく、単なる気持ちや考えの推測を例にして、「0~2次」の違いを私なりに紹介します。

0次」の段階「自分の考え・感情に気づく」

たとえば、

  • 自分は「お腹が空いた」と思っていることに気づく

これは自分自身の内面を認識する段階です。

1次」の段階「相手の考え・感情を推測する」

たとえば、

  • 相手が「そろそろお腹が空いた」と考えているかもしれないと気づく

これは1対1の場面で、相手の視点を推測する段階です。

一例ですが、

  • 私は「相手が時計を見た時、お昼の時間に近ければ一区切りしたいのかもしれない」

といったパターンを、経験や学習を通して身につけてきました。

こうした知識があることで、ある程度は対応できているのかもしれないと感じています。

2次」の段階「相手が別の相手の考えをどう思っているかまで追う」

たとえば、自分とAさんとBさんという3人いる場面で、

  • Aさんは、Bさんが「そろそろお腹が空いたな」となった気持ちに気づき
  • そのAさんが「そろそろ私もお腹が空いたな」と考えたことに自分が気づく

これは、「Bさんの気持ちをAさんがどう理解しているか」を「私が推測する」といった「入れ子」になった段階です。

誰が、誰の気持ちを、どう考えているのかを二重に追う必要があるため、情報量が増えて負担が大きくなります。

私はこの2次的誤信念がとても苦手です。特に私は3人以上の会話の時、幼い頃から「1対1の会話の延長」のように振る舞ってしまいます(個人差あります)。


心の理論はASDの「原因」なの?

実は、自閉スペクトラム症(ASD)を説明する仮説はひとつではありません。

他にも複数の理論があり、複数の仮説を組み合わせてASDを理解するのが現実的だと私は感じています。

つまり、心の理論の特徴は「一側面」であり、それだけで全体を説明できるものではないということです。

私の個人的な見解ですが、

  • 心の理論の特徴は、ASDの生まれつきの情報処理のスタイル(同時処理の苦手さなど)

と関連しているのではないかと感じています。

なので、心の理論の特徴は、生まれつきの特性による情報処理のスタイルの影響も受けつつ、環境や学習によって変化していく部分もあるのではないかと感じています(※個人の見解です)。


向き合い方のヒント

ここでは生まれつきの特性を前提に、後天的な学習や工夫で向き合う方法を紹介します。

※自閉スペクトラム症は、診断基準の改定により、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、自閉症などを含む概念となっています。当事者の特性には個人差があります。

本人ができること

  • よくある場面での反応パターンを覚えておく
    • 「例」
      • 相手が時計を見る→「そろそろ終わりたいのかも」
    • 特に、よく見かけるパターンはとても効果的です。
  • 会話の後で、相手の反応を振り返ってメモして学習する
    • 「例」
      • 「笑顔だった→良い反応」
      • 「黙った→困った?」
    • 相手の表情やジェスチャーを鏡の前で再現してみると、なんとなくわかった気になることがありました。
  • わからないときは、親しい相手(友人・知人)であれば、素直に確認してみる
    • 「例」
      • 「今の話、興味ありますか?」
      • 「嫌でなければ続けますね。」
    • 相手が「気をつかってくれているな」と感じる場合は、こちらの配慮の気持ちが効いて、関係が良好に進むかもしれません。

周囲ができること

  • 暗黙の了解ではなく、言葉で明確に伝える
    • 私の場合、解釈の範囲が多いと、すぐには理解が難しいと感じます。
  • 「察してほしい」ではなく、率直に気持ちを伝える
    • 私の場合、次の行動で頭の中がいっぱいで、周りの気持ちに気づかないことが多々あります。
  • 見落としている情報を補足して理解を促す
    • 「解説」
      • 曖昧な状態ではなく、「1+1=2」のように答えが明確になるよう情報を整理して伝えることです。
    • 「具体的に」
      • 「あの件」→「昨日の○○の件」
      • 「あの人」→「営業部のAさん」
      • 上記のように、指示語を具体的な言葉に置き換えます。
    • 「たとえば」
      • 「あの件」と聞いたときには、ASD傾向がある人の頭の中では「昨日の業務A」「1週間前の業務B」など、複数の候補が同時に浮かびます。
      • ASDでは、複数の記憶から一つの答えを選択することが苦手な傾向があるため、「昨日の○○の件」と時間を明示することで、答えを一つに絞りやすくなります。

向き合い方は工夫次第で少しずつ見つけられますが、無理をせず、できる範囲で調整していくことが大切だと感じています。


ASD当事者が対策をして感じたこと

私自身の体験では、会話パターンに事前に知識を結びつけておけば、リアルタイムの会話にもある程度対応できています(※もちろん個人差があります)。

ただし、これは「改善」であって「治る」わけではありません。

さらに、無理に「普通」と呼ばれる状態を目指すより、自分が納得できる範囲で調整するのが良いと考えています。

たとえば、私が実践していることは次のようなことです。

  • 複数人の会話では、発言ごとに誰が誰に話しているかを追うのではなく、中心になっている人や、疑問形を投げている人に意識を注目する(※これは私のやり方であり、参考になるかわかりません。個人差もあると思います。)
  • わからないときは、親しい相手であれば、素直に「どういう意図ですか?」と聞く
  • カウンセリングなど第三者の視点から「相手の視点」を言語化する練習を続ける

こうすることで、完璧ではないけれど、日常生活で困る場面を減らすことができたと感じています。

心の理論は「ある」と「ない」ではなく、リアルタイムに処理することが苦手なスタイルと、それによる発達のペースの違いだと理解すると、できないことを責めすぎずに済むと思います。


まとめ

  • 心の理論とは「他者の心を推測する力」のこと
  • サリー・アン課題などのテストで評価されることが多い
  • 一部の発達障害では、情報処理のスタイルや注意の配分が影響する
  • 「0次」「1次」「2次」と段階があり、複雑になるほど負担が増える
  • 心の理論だけでASDを説明できるわけではない

心の理論は、本人と周囲ができる範囲で工夫しながら関わり方を調整していくことで、日常の負担を減らせる場面もあると感じています。