この記事でわかること
- なぜ「得意な人」と「苦手な人」の両方が存在するのか(4軸での分解)
- 特に「入社直後が鬼門」になる理由(時間軸の視点)
- 同じ単純作業でも負担が全く違う職場環境の特徴(実践的判断基準)
- 慣れることで適応できる可能性がある理由(当事者の体験)
この記事の結論としては、ASDの単純作業の適性は「本人の能力」よりも、①注意のかかり方、②感覚刺激、③作業の意味づけ、④同時処理(WM負荷)の4つの条件で大きく変わる、という整理になります。
はじめに|「得意」と「苦手」、両方の情報がある理由
「ASDの人は単純作業が得意」「発達障害は工場や軽作業が向いている」という話を聞いたことがある方は多いと思います。
一方で「実際には苦手だった」「工場のライン作業が続かなかった」という体験談も、よく見かけます。
私自身、ASD当事者として、単純作業に対して「得意な部分」と「苦手な部分」の両方を感じてきました。
同じ「単純作業」でも、環境や条件によって、まったく違う感覚になることがあるんです。
そこでこの記事では、「ASDと単純作業」について、なぜ得意な人と苦手な人の両方がいるのかを整理してみたいと思います。
ネット上には「得意」「苦手」という情報が混在していますが、なぜそうなるのかを構造的に整理した記事は少ないと感じています。
この記事では、作業内容・環境・個人の特性の視点から分解して考えていきます。
※当事者視点の整理です。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。
この記事で扱う「単純作業」について
この記事でいう「単純作業」は、主に次のような仕事をイメージしています。
工場でのライン作業(部品の組み立て・検品・箱詰めなど)や、倉庫でのピッキング・仕分け、比較的パターンが決まっている軽作業などです。
一方で、接客業やクレーム対応を含む電話応対など、対人要素が強い仕事は、この記事の範囲からは外しています。
※あくまで私が体験した範囲での整理です。
当事者から見た「向いている単純作業」と「向いていない単純作業」
現実には「得意な人」と「苦手な人」の両方が確かに存在します。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
「向いている」単純作業が生じる理由
手順が固定化しやすい
パターン化・ルール化が得意な特性との相性が良いです。
同じ作業を繰り返すことで、手順が身体に染み込んでいきます。
選択的注意がプラスに働くケース
目の前の作業に集中しやすいタイプは、周囲の雑音をあまり気にせず、一定のリズムで作業を続けられることがあります。
特に、作業内容が安定している環境や、周囲から話しかけられる頻度が低い職場では、「選択的注意」がプラスに働きやすいと感じました。
ただし、私の体験では、刺激の量によって集中のしやすさが変わるという側面もあります。
作業の意味が明確
「何をしているか」を把握しやすいケースでは、迷いづらいです。
手順だけでなく、その作業の目的が理解できると、安心して取り組めます。
「向いていない」単純作業が生じる理由
一方で、苦手に感じやすい要因もあります。
同じ「選択的注意」がマイナスに働くケース
同じ選択的注意の特性が、マイナスに働く場面もあります。
- 刺激が単調すぎて考え事などをしてしまい、注意が0%に近い状態になる
- 逆に、情報量が多すぎて「どこに注意を置くべきか」迷子になる
このような環境では、「選択的注意が強い」こと自体が負担になり、結果としてミスが増えたり、極端な疲労につながることがありました。
感覚刺激が強い職場環境
騒音・光・人数などが負荷になりやすいです。
感覚過敏がある場合、作業そのものより環境の刺激で疲れてしまうことがあります。
他者ペースへの同期
ライン作業など「外部のスピード」に合わせる必要がある場合に、難易度が上がります。
自分のペースで進められない環境は、想像以上にストレスになります。
なぜ「最初の数週間」が特に厳しいのか
私の経験上、仕事でASDの人が苦労しやすいのは、特に入社直後の数週間です。
私が工場系の仕事を経験したとき、負担が大きかったのは主に導入期(最初の数週間)でした。
この時期は、作業手順・環境音・人間関係など、同時に処理すべき情報が最も多いタイミングです。
具体的には:
- 作業手順を覚える
- 周りの人の動きを観察する
- ラインのスピードに合わせる
- 音・光などの環境刺激に慣れる
といったことを同時に処理する必要があります。
そのため、ASDの特性上、同時処理が苦手な人ほど「ここが一番きつい」状態になりやすいと考えています。
慣れると変化が起きる
しかし、慣れてくると変化が起きました。
手順が身体に染み込み、周囲の人や環境にも慣れてくると、意識的に考えなくても動けるようになり、同時処理の負担がぐっと減ったんです。
つまり、最初は複雑だった作業が、慣れることで「単純」になるというプロセスがあるのだと思います。
たとえば、最初は「次はこれを取って、ここに置いて、確認して…」と一つひとつ考えていたことが、数週間後には「自然に身体が動く」ようになります。
私の場合、作業以外の交流や生活リズムなどにも慣れても、改善される傾向がなければ、相性がよくないと判断するかもしれません。
この「慣れるまでの期間」をどう乗り越えるかが、仕事の適性を左右する大きなポイントです。
同じ「単純作業」でも負担が全く違う理由
工場の仕事について調べていて気づいたのは、同じ「ライン作業」でも、職場によって疲れ方が全く違うということです。
これは工場の規模というより、「同時に気を配ることの多さ」が関係していると思います。
負担が大きくなりやすい職場
たとえば:
- 作業しながら周りとの連携が必要(「次の人が待っている」というプレッシャー)
- 頻繁に声をかけられる、世間話が多い
- 覚える種類が多い(日替わりで製品が変わるなど)
- 騒音や人の多さで感覚過敏の負担が大きい
- ペースが外部で決まっている(ラインのスピードに合わせる必要)
これらが重なると、「単純作業」なのに同時処理の負荷が高くなります。
特に、ラインのスピードに合わせる必要がある職場では、自分のペースで慣れる時間が取れないことがあります。
負担が軽くなりやすい職場
一方で:
- 基本的に一人で黙々とできる
- 同じメンバー、同じ作業の繰り返し
- 自分のペースで進められる(納期はあるが、分単位では調整可能)
- 静かで刺激が少ない環境
- 機械の前で待つなど、ゆったりした時間がある
こういう職場だと、慣れてしまえば同時処理の負担がほとんどない状態になります。
たとえば、セットして機械の前で待つような作業であれば、手順を覚えてしまえば、あとは自分のペースで進められます。
つまり、「単純作業が得意か苦手か」は、作業そのものより、環境要因で決まる部分が大きいのだと思います。
ASDの単純作業を4つの軸で整理
得意・苦手の差は、次の4つの軸でほぼ説明できると考えています。
| 軸 | 得意になりやすい要因 | 苦手になりやすい要因 |
|---|---|---|
| 注意 | 選択的注意が強い | 単調で注意維持が困難 |
| 感覚 | 刺激が少ない | 騒音・光などが負荷 |
| 意味づけ | 手順の意味が理解しやすい | 意味が弱いとストレス |
| WM負荷 | 手順が固定 | 他者同期・変化が多い |
※これは当事者の体験からの気づきです。
自分がうまくいかなかった単純作業を思い出して、注意・感覚・意味づけ・WM負荷のどこで負担を感じていたのかを振り返ってみると、整理がしやすくなると思います。
「全部ダメ」ではなく、「特にここがきつかった」という視点で考えると、次の仕事選びのヒントになるかもしれません。
注意の軸
選択的注意が強い人は、目の前の作業に集中しやすい一方で、極端に振れやすいと感じています。
刺激が単調すぎると考え事などをしてしまい注意が0%に近い状態になったり、逆に情報量が多すぎると「どこに注意を置くべきか」迷子になったりしやすいからです。
私の場合、「数ステップくらいで1サイクルが回る作業」は安定しやすく、「10ステップ以上を覚えながらやる作業」や「ひたすら同じものを眺めるだけの検品」は、注意維持が難しくなりがちでした。
感覚の軸
感覚過敏がある場合、作業そのものより環境の刺激で疲れます。
静かで刺激の少ない環境であれば、長時間でも集中できることがあります。
意味づけの軸
手順の意味が理解できると、安心して取り組めます。
また、任されているポジションの人数が少ないほど、自分の役割や作業の意味が明確になり、取り組みやすくなることがあります。
逆に、「なぜこれをしているのか」が分からないと、ストレスになりやすいです。
WM(ワーキングメモリ)負荷の軸
手順が固定されていれば、慣れることで自動化できます。
しかし、他者と同期する必要がある場合や、頻繁に変化がある場合は、負荷が高くなります。
まとめ|単純作業の適性は「分解」して考える
ネット上には「ASDは単純作業が得意」という情報と「実際は苦手だった」という体験談が混在していますが、どちらも間違いではありません。
重要なのは:
- 4軸(注意・感覚・意味づけ・WM負荷)で分解すると理解できる
- 環境要因(同時処理の負荷)が適性を大きく左右する
- 初期が鬼門だが、慣れると適応できる可能性がある
- 「単純作業」というラベルだけで判断せず、環境を分解して考えることが大切
単純作業の適性は「能力」より「環境との相性」と「慣れるまでのサポート」で決まると、私は思っています。
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