「ASD理解」実行機能・不注意・衝動性易刺激性

ASDは嫌な記憶を繰り返しやすい?|侵入思考について

侵入思考に悩む様子を表したイラスト。女性が困った表情で頬に手を当て、頭上に渦巻きマークが描かれている。 「ASD理解」
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この記事でわかること

※「侵入思考」は、PTSDのフラッシュバックなどと関連はありますが、医学的には別の用語として区別されることもあります。この記事では、広い意味で「自分の意思に反して頭に入り込んでくる嫌なイメージ」として扱います。

  • 侵入思考とはどういう状態なのか
  • 発達障害(ASD・ADHD)での侵入思考の特徴
  • 性格ではなく脳の情報処理の特性に由来すること
  • 本人や周囲ができる工夫のヒント
  • ASD当事者の気づきと向き合い方

この記事の結論は、

侵入思考は性格ではなく情報処理の特性に関係しており、完全に抑えるより「距離を取る工夫」が有効である、という整理です。


はじめに

「昔の失敗を突然思い出して、胸がギュッと苦しくなる」

「何年も前の恥ずかしい記憶が、急に頭に浮かんで離れない」

こんな経験はありませんか?

ASD当事者として暮らすなかで、突然過去の記憶や嫌なイメージが頭に浮かんで離れないことがあります。

これは「侵入思考」と呼ばれる現象です。

この記事では、侵入思考とは何か、なぜASDで起こりやすいと感じることがあるのか、そして実際にどう向き合えばよいのかを、当事者の視点からわかりやすく整理していきます。

※当事者視点の整理です。診断や治療を代替できません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。


侵入思考とは?

侵入思考そのものは、ASDだけに特有の現象ではなく、PTSDや強迫症など、他の精神疾患でも報告されているものです。

「侵入思考(しんにゅうしこう)」とは、自分の意思に関係なく、不快な記憶やイメージが頭に入り込んでしまう現象のことです。

  • 昔の失敗を突然思い出してしまう
  • 嫌な場面が勝手に頭の中で再生される
  • 止めようとしても、イメージが続いてしまう

フラッシュバックと似ていますが、もっと軽い形で「ふと浮かんでしまう」場合も含まれます。

誰にでも起こりうる現象ですが、ASDの人の中には、過去の出来事や嫌な記憶を繰り返し思い出してしまい、それが日常生活の妨げになることがある人もいます。


発達障害と侵入思考の関係

ASD(自閉スペクトラム症)の場合

ASDの中には、次のような特徴を持つ人がいます。

  • 情報の切り替えが難しく、一度浮かんだ記憶が繰り返し再生されやすい
  • 感覚記憶が鮮明で、過去の体感までリアルによみがえる
  • 過去と現在の境界があいまいで、「今起きている」ように感じることがある

ADHD(注意欠如・多動症)の場合

ADHDの中には、次のような傾向を持つ人がいます。

  • 思考が抑制されにくく、嫌な記憶が浮かびやすい
  • 注意のコントロールが難しく、侵入思考に引っ張られやすい
  • 衝動性が高いと、思い出したことに即座に反応してしまうことがある

発達障害の侵入思考は、「気にしすぎ」や「考えすぎ」といった問題ではなく、脳の情報処理や記憶の特性に関連していると考えられています。


性格ではなく脳の特性

侵入思考は「ネガティブ思考」や「気にしすぎる性格」とは異なります。

  • 脳の情報処理や記憶の特性に由来する部分がある
  • 気合いや根性で完全に抑えるのは難しい
  • 適切な工夫やサポートで和らげることができる

この点を理解しておくことは、「自分は気にし過ぎる性格だ」と過度に責めすぎないための第一歩になります。


ASDに侵入思考が起こりやすいと感じる理由

情報処理の切り替えが難しい

ASDでは、ひとつの情報に強く集中しやすく、切り替えが難しい人がいます。

そのため、嫌な記憶が入り込むと、頭の中で繰り返し再生されやすくなります。

一度浮かんだ場面を止めようとしても、映像のように続いてしまうことがよくあります。

私の場合、通勤中に昔の失敗を思い出すと、駅に着くまでずっとその場面が頭の中で回り続けることがありました。

感覚や記憶のリアルさ

ASDの人の中には、感覚の記憶が強く残りやすく、思い出すと当時の体感までよみがえる人がいます。

例えば、昔の失敗を思い出すと、そのときの声のトーンや空気までリアルに感じることがあります。

視覚だけでなく、音や温度、相手の表情まで鮮明に再生されるため、「過去のこと」として距離を取りにくいのです。

過去と現在の区切りがあいまい

頭の中で「これは過去のことだ」と整理するのが難しいと、今その場で起きているように感じてしまうことがあります。

そのため、過去の出来事なのに体が反応してしまい、ため息や独り言が出てしまうこともあります。

さらに、思い出したことに対して「今の自分」が反論したり、謝ったりしてしまい、余計に疲れてしまうこともあります。


典型的なエピソード例

侵入思考は、日常のさまざまな場面で起こります。

  • 職場での小さなミスを、家に帰ってからも何度も繰り返し思い出してしまう
    • 報告書の誤字を思い出して、寝る前まで「なぜあのとき確認しなかったのか」と考え続けてしまう
  • 学生時代の人間関係の失敗を、大人になってからも突然思い出し、気分が沈む
    • 10年前の同級生とのやりとりを思い出して、今でも胸が苦しくなる
  • 何気ない言葉を「嫌われた」と感じ、何日もその場面を反芻してしまう
    • 上司の「大丈夫?」という言葉を「できていないと思われている」と解釈し、ずっと気になる

これらは私自身にも当てはまりますし、同じように感じる人もいるのではないかと思います。


向き合い方のヒント

侵入思考を完全になくすことは難しいですが、和らげる工夫はあります。

本人ができること

  • 「過去のこと」と言葉で区切る
    • 「これは○年前のことだ」と声に出すか、心の中で言ってみる
  • 別の情報を入れて切り替える
    • 音楽を聴く、散歩する、別の作業に集中するなど、意識的に入ってくる情報を変える
  • 紙やメモに書き出して外に出す
    • 頭の中でループさせず、メモに書いて「いったん外に出した」感覚を作る
  • 「今は安全」と確認する
    • 周りを見渡して、今の環境を確認し、体を落ち着かせる

私の場合、侵入思考が強いときは、スマホのメモに「○○を思い出した。○年前のこと」と一行だけ書くだけでも、少し落ち着きます。

※これらの工夫で強い苦痛を感じたり、日常生活に影響が出る場合は、無理をせずにすぐ中断してください。必要に応じて医師や専門家(トラウマケアのカウンセラー等)にご相談ください。

周囲ができること

  • 「気にしすぎ」と否定しない
    • 本人にとってはリアルな体験なので、「そう感じるんだね」と受け止める
  • 「今ここ」に戻れる声かけをする
    • 「今は大丈夫だよ」「今はここにいるよ」など、現在を意識させる言葉をかける
  • 無理に忘れさせようとしない
    • 「忘れなさい」ではなく、「少し距離を取ってみようか」など、柔らかい提案をする

辛い過去と向き合うことは誰にとっても大きな負担だと思うので、本人も周囲も無理をせず、必要に応じて専門家の力を借りることが大切だと私は思います。


ASD当事者としての気づき

私にも侵入思考があり、何年も前の小さな失敗を突然思い出して、その時を今のように感じて反応してしまうことがあります。

ただし、最近は次のような工夫をしています。

  • 思い出したら「○年前のこと」と心の中で言う
  • スマホのメモに「思い出した内容」を一行だけ書く
  • 深呼吸して、周りを見渡して「今ここ」を確認する
  • 主治医や専門家と事前に相談して決めた対処法を使う

こうすることで、侵入思考が浮かんでも、少しだけ距離を取れるようになってきました。

完全にはなくならないものの、「これは脳の特性によるところもある」と理解することで、自分を責めすぎずに済むようになったと感じています。


まとめ

  • 侵入思考とは「自分の意思に関係なく浮かぶ嫌な記憶やイメージ」のこと
  • ASDでは、情報切り替えの難しさや記憶のリアルさから、侵入思考が続きやすいと感じる人がいる
  • 性格ではなく、脳の情報処理や記憶の特性が関わっていると考えられるため、工夫や支援で和らげることができる

「過去のこと」と区切る、別の情報で切り替える、書き出す、「今ここ」を確認するなどの工夫が一つのヒントになるかもしれません。

私にとって侵入思考は日常の一部ですが、同じような悩みを抱える人が「自分だけではない」と知るきっかけになればと思います。