「当事者の体験」実行機能・不注意・衝動性

自閉スペクトラム症(ASD)の見落とす特性|同時処理の苦手さの整理

ノートパソコンの前で書類に囲まれ、同時処理の多さにパンクしそうになっている女性のイラスト(ASD当事者の見えない負担のイメージ) 「当事者の体験」
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はじめに

自閉スペクトラム症(ASD)当事者の中には、見えているはずなのに見えていない感覚をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。

周囲からは、「よく見ている」「理解力がある」といった評価を受けることもあるかもしれません。

反対に、日常生活や仕事の場面では、まるで見えていないような見落としが多く困ってしまうこともあるかもしれません。

私も、そんなギャップを抱えるASD当事者の一人です。

これは矛盾ではなく、

  • 見えている部分は鋭いが、その分「同時に見えている範囲」が狭くなりやすい

といった特性が関係しているかもしれません。

ここでは、私が感じている「同時処理が苦手なタイプのASD」の脳の特性について整理してみます。

テクノロジー社会で、マルチタスクが「前提」になっている

現代社会では、仕事でも私生活でもマルチタスクを行う場面が増えています。

そのため、「平均以上の処理力」が前提になっている場面が多いように感じます。

たとえば、スマホの通知が次々と飛んでくる状況があります。

そこに作業中の連絡が重なり、さらに仕事では「複数の業務を並行して進めること」が当たり前に求められることがあります。

こうした環境は、同時処理が苦手な特性にとっては、それだけで高難度タスクの連続になっているかもしれません。

家事を一つ後回しにすると、次の家事と重なって雪だるま式に増えていく、といったことも起こってきます。

多くの人にとっては「ちょっと忙しいだけ」で済む場面でも、マルチタスクが苦手な人にとっては、慢性的なオーバーワークになりやすいと感じています。


同時処理が苦手なリアル

私は、言葉の意味を理解することは得意な方だと感じています(自称です)。

しかし、会話の中で

  • 相手の言葉の内容
  • 表情や声のトーン
  • その場の空気や文脈

といった複数の情報を同時に扱うことが難しく、結果として、文脈から少しズレた返答をしてしまうことがあります。

外からは「話の内容は理解しているように見えるのに、なぜ今その返事?」と不思議に思われるかもしれません。

私の内側では、「リアルタイムで処理し続けること自体が、すでに限界ぎりぎり」といった感覚に近いと思っています。


見えない負担が存在する

私が感じるASD特性に関連した困りごとのひとつは、外からは見えにくい「見えない負担」が存在することです。

  • 普通に会話しているように見える
  • 説明すれば理解しているように見える

このように、その場では「分かっている人」として扱われる一方で、「脳の特性」由来の困りごとは見逃されやすいと感じています。

私の頭の中では、

  1. 言語理解(何と言ったかを理解する)
  2. 表情やトーンの読み取り(どんな様子で話しているかを考える)
  3. 状況判断(今、この場で何を返すのが適切かを決める)

といった処理を、一つずつ順番にこなしていることが多いです。

その結果、社会全体のテンポから半歩から一歩ほど遅れているように感じる場面が多くあります。

この遅れが蓄積していくと、「急に動けなくなる」「急にパンクする」といった形で表に出てくることがあります。


「軽度の発達障害」という言葉の誤解

私の経験上、「軽度の発達障害」という言葉は、しばしば「ほとんど支援がいらない人」という意味に受け取られているように感じます。

しかし実際には、

  • 困っている部分は支援が必要
  • けれど外からは困りごとが見えにくい

というケースが少なくないのではないでしょうか。

個人的な見解ですが、本来は配慮が必要な部分が見落とされ、できている部分だけを基準にして

  • 全体として支援の必要度が「軽度」と判断されてしまう

といったことが起こりやすいのではないかと感じています。

同時処理が苦手な方は、

  • 静かな環境
  • 順序立てて進められる作業
  • 予定や手順がはっきりしているタスク

では、むしろ能力を発揮しやすい場合があります。

一方で、

  • その場での急な指示変更
  • マルチタスク前提の仕事
  • 「同時にいろいろ見て動く」ことが求められる場面

では、一気に負担がかかり、破綻しやすくなるかもしれません。

「軽度だから大丈夫」ではなく、「見えにくい困難さがあるからこそ、環境ややり方を調整すればできる」、といった捉え直しが大切だと感じています。


おわりに

自分の処理特性に合わせた環境ややり方を整えることが、いちばん現実的な対策だと感じています。

同時処理が苦手でも、ひとつずつ順番に処理することが得意で、その結果として正確で深い理解につながることがあります。

これは特性の大きな強みでもあります。

  • 仕事の組み立て方を工夫すること
  • 予定やタスクをあらかじめ書き出しておくこと
  • 「同時にやる」のではなく「順番にやる」前提で設計すること

こうした小さな調整の積み重ねによって、見えない負担を少しずつ減らしていくことは可能だと感じています。


※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。