「当事者の体験」こだわり・常同行動実行機能・不注意・衝動性

自閉スペクトラム症視点のモノトロピズム|一点集中(過集中)の感覚

モノトロピズムをイメージした一点集中のイラスト 「当事者の体験」
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この記事でわかること

  • モノトロピズムの基本的な考え方
  • 「一点しか乗らない」集中の体感イメージ
  • マルチタスク場面で起きやすい負担の理由
  • 注意の対象が増えると「忘れる」ことの整理と工夫

はじめに

ASDとモノトロピズム

自閉スペクトラム症(ASD)では、「一点に強く集中しやすい」「没頭しやすい」と言われることがあります。

よく使われている言葉としては、いわゆる「過集中」と呼ばれる状態です。

これについて、単に集中力が高いというだけではなく、そもそもの「注意の向き方」に特徴があると説明しているのが「モノトロピズム」です。

この記事で、「なんで自分はマルチタスクがしんどいんだろう?」と感じている人も、自分の状態を言葉にしやすくなるかもしれません。


モノトロピズムとは

「注意が一点に集まりやすい」スタイル

モノトロピズムは、注意や興味が「一点に集中しやすい」傾向を説明する考え方です。

よくある特徴としては、

  • 興味のある対象には深く没頭しやすい
  • それ以外の情報が頭に入りにくい
  • 注意を切り替えると、とても疲れやすい

といった点がよく挙げられます。

「注意のトンネル」というイメージ

モノトロピズムの説明では、よく「注意のトンネル(attention tunnel)」という比喩が使われます。

  • 「トンネルの中だけが明るく、はっきり見える」
  • 「トンネルの外側は暗く、情報が入ってきにくい」

というイメージです。

ここでのポイントは、「目の前は見えてはいるけれど、広い範囲の情報は把握できていない」というところです。


私の「一点しか乗らない」集中の感覚

一点に集中するのは得意

私の興味のある対象に取り組んでいるときの感覚は、

  • その対象だけが明るく、クリアに見える
  • 周りの刺激は小さく感じられる
  • 対象との距離がぐっと近づくような没入感がある

この状態では、一つのことに全力で取り組める感覚になることがあります。

「一点集中」というよりも「一点にしか」集中できない

ただし私の場合は、

  • 「一点に集中できる」というより
  • 「一点にしか注意が乗らない

という表現のほうが、感覚として近いです。

ある対象に注意が乗っているときは、

  • 「もう一つの刺激」
  • 「急な声かけ」
  • 「画面上の別の要素」

など、「見えてはいるけど、処理できていない」という状態になる傾向がよくあります。

手でトンネルを作って片目で覗く感じ

私の例えでは、「手で丸いトンネルを作り、片目でその中だけを覗いている」、といった感覚です。

そしてそれは、

  • 「トンネルの中だけがはっきり見える」
  • 「トンネルの外側は暗く、ほとんど認識されない」
  • 「意識の視野が、前方へ細く伸びている感じ」

といった状態に感じます。

これらは、たしかに集中はできますが、同時に多くの情報を見落としやすいことも改めてよく分かります。


マルチタスク場面での一点集中

「マルチタスク」は「高速の切り替え」

いわゆる「マルチタスク」は、多くの人が何気なくこなしていて、同時にできている感覚があるかもしれません。

でも実際には、「注意の焦点を高速で切り替えている」、といった説明されることが多いです。

たとえば、

  • 「音楽を聞きながら勉強する」
  • 「話をしながらメモを取る」

といったことも、「完全な同時処理」ではなく「注意の高速切り替え」に近いと考えられています。

ポリトロピックとの対比

ここで、モノトロピズムとの対比として、「ポリトロピック(多方向に注意を向けやすい)」を使います。

このポリトロピックの人は、「注意の切り替えにあまり負担を感じにくい」といった特徴を持つと言われています。

一方で、モノトロピズムの人は、

  • 「一つの注意が深くなりやすい」
  • 「別の方向に注意を切り替えることが苦手」
  • 「切り替え自体に負担を感じることがある」

といった傾向があるとされています。

そのためモノトロピズムの人は、マルチタスクの場面では負担を感じやすいと言われています。


「増えると忘れる」をモノトロピズムで説明する

タスクが増えると、どこかを忘れる

たとえば、こんな場面を考えてみます。

  1. 「A作業」という作業をしている
  2. そこに「Bさん」の声かけが入る
  3. さらに「Bさん」から「Cタスク」が発生する

このように、注意の行き先が次々と増えていくと、A・B・Cのいずれかで「忘れる」ことがあります。

結果的に、

  • 「A作業」どこまでやったか忘れた
  • 「Bさん」の話が聞き取れない・すぐ忘れた
  • 「Cタスク」のことをすっかり忘れていた

といったことにつながるかもしれません。

記憶力の問題とは違う

この「忘れ」を、ただの記憶力の問題だと考えると、自分を責めやすくなってしまいます。

モノトロピズムの考え方を使うと、これは「一点集中型の注意スタイルのまま」で「無理にマルチタスク状態に入った」ときに、どこかがこぼれ落ちるのはある意味「自然な結果」、といった別の見方ができます。

「順番に行う」工夫

こうした「忘れる」を少しでも減らすために、私が役に立つと感じている工夫は次のようなものです。

たとえば、

  • 「中断したところ」をメモしてから別のことをする
    • 例:「A作業、3ページ目で中断」と書いておく
  • タスクを順番に並べて書く
    • A → B → C → Dといった順番を、目で見て分かるようにしたり、変更をなるべく避ける
  • 同時にやろうとせず、「順番にやる」と決める
    • Aを終わってから、次はBを行うなど、1個ずつ行動する

こうした工夫は、「マルチタスクをがんばる」のではなく、「シングルタスクをしやすくする」ための仕組みと考えると、少し気が楽になるかもしれません。


まとめ

  • モノトロピズムは注意が一点に集まりやすいスタイル
  • 私の場合は「一点集中」より「一点しか」乗らない感覚
  • 手で作ったトンネルから片目で覗くイメージが一番近い
  • 刺激やタスクが増えると、注意の切り替え負担から処理が乱れやすい

この記事全体としては、「モノトロピズム」という考え方を使って、自分の「過集中」と「忘れやすさ」の理由を言葉にしてみた内容になります。

「注意のスタイルがこういう形なんだ」と理解することが、いろんな人の助けになれば幸いです。


※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。