はじめに
発達障害当事者の困りごととして、
- 「相手の言っていることは理解できている」
- 「敬語のルールも知っている」
といった状態なのに、いざ口を開こうとすると言葉が出てこないことがあるかもしれません。
私もその一人で、こうした体験をする自閉スペクトラム症(ASD)当事者は少なくありません。
この記事はあくまで、私や周囲の当事者が感じている「詰まり方」を、一般的に説明されている認知特性と重ねながら言語化したものです。
どこで詰まっているのか
まず、会話で言葉を返すまでの流れをざっくり分けてみます。
- 相手の話を聞いて意味を理解する
- 返すべき内容(方向性)を決める
- 頭の中から適切な言葉を取り出す
- 文として組み立てる
- 発声する
多くのASD当事者の話を聞いていると、詰まりやすいのは3と4のあたりだと感じます。
- 「話の意味はわかっている」
- 「だいたい何を返したいかも決まっている」
それなのに、その内容を「具体的な言葉の形にするところ」で処理が渋滞し、口が止まってしまう。
体感としては、「後は言葉を選ぶだけ」という感覚はあるのに、言葉がその場で出てこない、という感じに近いかもしれません。
なぜリアルタイム処理が難しくなるのか
ASDに関する説明の中には、
- 語の取り出しがスムーズにいきにくい
- 同時に複数の処理を走らせるのが負荷になりやすい
といった指摘があります。
当事者の感覚としても、
- 頭の中に「こういう内容を返したい」という意味のかたまりはある
- それを具体的な単語や文の形に変換するのに時間がかかる
という声はよく聞かれます。
さらに、会話中は次のようなことをほぼ同時進行でこなす必要があります。
- 相手の言葉の意味を理解する
- 相手の意図や気持ちを推測する
- 場の雰囲気をざっくり読む
- 自分の返答の内容を決める
- その内容を文に組み立てる
- 実際に発声する
一つひとつだけならこなせても、これらを並行して処理しようとすることが負担になっているのかもしれません。
その結果として、
- 「はい、その……」と途中で止まる
- 一瞬、頭が真っ白になったように固まる
といった「詰まり」が起こりやすくなると考えられます。
敬語が絡むとさらに難しくなる
敬語を使う場面では、この負荷がもう一段階増えます。
日本語では、
- 丁寧語
- 尊敬語
- 謙譲語
などを、相手との関係や場の状況に合わせて切り替える必要があります。
多くのASD当事者は、「どういう場面で、どの敬語が必要か」というルール自体は理解していることが多いかもしれません。
ですが、問題になりやすいのは、そのルールを「リアルタイムの会話の中で運用する」という部分です。
つまり、
- 返答の内容を考える
- 文として組み立てる
- その文に合う敬語表現を選び直す
といった形で、処理の段階が一つ増えることになります。
こういった負荷がかかることで、「あ、ここは敬語を変えないと」といったことで頭の中で引っかかるかもしれません。
その瞬間に「言葉全体が止まってしまう」といった、詰まり方につながるかもしれません。
詰まりやすい場面の例
急に話を振られたとき
心の準備ができていない状態で、その場で内容を考え、言葉を選ぶ必要がある。
「内容を決める」と「文を組み立てる」が同時進行になりやすく、組み立て前で固まることがあります。
敬語が必要なとき
上司や取引先、目上の人が多い場面では、敬語の選び方にも意識を割く必要があります。
- 文の内容
- 敬語の形
- 場の空気
など、見ておくべき要素が増えることで、処理量が一気に増えやすくなるかもしれません。
私がやっている小さな工夫
これは当然ながら「誰にでも効く方法」ではありませんが、私自身は少し楽になりました。
よく使う定型フレーズを決めておく
たとえば、
- 「もう一度お願いしてもよろしいでしょうか」
などをパターン別に用意しておくと、とりあえずこの一言だけ出し、そのあとに落ち着いて内容を確認することができます。
これは、自分のセリフである程度相手の反応を縛り、次の相手の反応を予測できることで、内容の理解に処理を優先することにつながると思っています。
「一拍置くこと」を自分に許可する
沈黙を埋めようと焦るほど固まりやすいので、1から2秒の間は意図的に空けることも一つかもしれません。
そうすると、「すぐ返さないと失礼」という思い込みをゆるめることができ、結果として楽になる場合があります。
実際には、この程度の間は相手はほとんど気にしていないかもしれません。
雑音が多い場所では返答を短くする
騒がしい状況では、詳細をその場で伝えようとしない。
要点だけは先に伝えて、細かい話は後にしたりすると、処理量を意識的に減らせます。
まとめ
「意味はわかるのに言葉が出てこない」という体験は、ASD当事者の一部でよく語られるものです。
ここでは、
- 会話にどんな処理ステップがあるのか
- その中のどこで詰まりやすいのか
- 敬語や環境がどう負荷を増やすのか
といった点を、当事者の感覚と一般的に説明されている認知特性と重ねて整理しました。
ASDと一言でいっても、感じ方や得意・不得意の出方は人によって大きく異なります。
ここでの説明は、「こういう詰まり方をする人もいる」という一例として読んでいただければと思います。
そのうえで、
- 定型フレーズをストックする
- 一拍置くことを許可する
- 環境に応じて返答量を調整する
といった工夫があります。
これらは、「意味はわかっているのに言葉にするのが苦しい」という場面を少し過ごしやすくしてくれるかもしれません。
※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。

