発達障害の特性は「経験則」からズレやすい理由｜少数派の行動が誤解されるしくみ

はじめに：なぜ発達障害の特性は「ズレて見える」のか

「やる気がない」「わがまま」「反応が遅い」といった言葉で説明されてしまうとき、実際には「特性のズレ」が起きていることがあります。

人の理解は「過去の経験」をもとに予測する仕組みで成り立っています。

たとえば、一般的な職場では「上司が指示を出した→すぐ返事をする」という流れが「普通」として共有されています。

しかし、発達特性のある人は、内容を正確に理解してから返答したい、または複数の情報を一度に処理できず少し間が空くことがあります。

その一瞬の「間」が、多数派の経験則には存在しないため、「反応が遅い＝不機嫌」と誤解されやすくなります。

こうしたズレは、怠慢や性格の問題ではなく、単に「脳の情報処理のスタイルの違い」に過ぎません。

※当事者視点の体験です。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。

人間の脳は、目の前の出来事を「過去の経験」と照合し、未来を予測しながら理解しています。

ところが、発達障害の行動パターンは、多数派の脳が持つ「既知の経験データベース」に登録されていない場合が多いのです。

その結果、脳は「最も近い既知のパターン」に無理やり当てはめて理解しようとします。

たとえば――

といった誤ったラベリングが起きます。

つまり、誤解は「少数派の行動」そのものよりも、「それを処理する側の脳の予測モデル」に原因があるのです。

経験則のズレは、単に特性差だけでなく、「理解する側の処理力」にも影響されます。

ワーキングメモリが小さいと、相手の話の前後関係を保持できず、言葉尻だけで判断してしまうことがあります。

統合力が弱い場合、部分的な情報だけを切り取って誤解することもあります。

また、推論力が弱いと「相手の意図」を読み取れず、「言葉そのもの」しか理解できません。

この状態では、ASDやADHDなどの発達障害の特性を持つ人の「背景にある意図」を想像することが難しく、結果的にズレが大きくなるのです。

私自身、発達障害としてうまくなじめない経験が多くありました。

思い返してみると、特性が少数派すぎるために、些細なミスが「やる気がない」「注意不足」と簡単に結び付けられてしまうことがありました。

その結果、職場での立場が悪くなったり、実際以上に能力を低く見られることもありました。

また、「発達障害」という診断名の下でも、顕著に現れる部分や苦手さには個人差があります。

広く「自閉スペクトラム症」と呼ばれていても、古典的自閉症を思い浮かべる人も多く、「スペクトラム＝連続的な多様性」という発想自体が伝わっていないと感じることがあります。

そのため、配慮を求めるにも「どの程度、どの場面で必要か」を本人が言語化できなければ、結果的にすれ違いが起きやすくなります。

動けるのに過度の配慮をされたり、逆に典型例より軽く見られてサポートが届かない。

このような「中間層の困りごと」は、まだ社会的理解が追いついていないと感じます。

そうした場面では、本人と職場の間に「通訳」のような人がいたり、ASDに理解のある支援員・先輩が介在するだけでも、結果は大きく違ってきます。

ズレをなくすためには、「経験則に頼らない対話の仕組み」を作ることが有効です。

こうした工夫は、障害の有無にかかわらず、すべての人間関係に応用できます。

発達障害の特性は、単に「多数派モデルの外側にある」だけであり、異常ではありません。

社会の「普通」が一つのモデルだとすれば、そこに複数のモデルを並べていくことこそ、共生社会の第一歩です。

「理解されにくい」ことは、本人のせいではなく、社会の経験則がまだ狭いだけ。

少しずつ、互いのモデルを広げていくことで、誤解は確実に減っていくはずです。

「各自治体の発達相談窓口」→「※お住まいの自治体の公式サイトをご確認ください」
- 就労支援サービスの利用相談や制度の確認ができます。
「発達障害者支援センター」→「https://www.rehab.go.jp/ddis/」
- 特性に基づく相談ができ、生活・就労・家族支援など幅広く対応しています。
「ハローワーク（障害者専門窓口）」→「https://www.hellowork.mhlw.go.jp/member/sy_guide.html」
- 障害者雇用の相談、求人紹介など支援する、障害者専用窓口の案内ページです。
「障害者職業センター」→「https://www.jeed.go.jp/」
- 職業評価（アセスメント）を通して、働くうえでの強み・課題を整理できます。