この記事でわかること
- 実行機能とは何か(脳の管理職にあたる働き)
- ワーキングメモリ・抑制制御・認知的柔軟性・という三つの要素
- ASDとADHDで、実行機能の困難がどのように異なって現れやすいか
- 片付け・会話・仕事など、日常生活での具体的なつまずきのパターン
- ASD当事者としての体験を実行機能の要素と結びつけて整理
この記事の結論は、
実行機能の困難は、三つの要素のどこに負荷がかかっているかで変わり、ASDとADHDではその中心が異なる。自分が「気付きの段階」「判断の段階」「複数の流れをつなぐ段階」のどこでつまずいているかを知ることで、視覚化・構造化・外部記憶などの工夫をどこに効かせればよいかが見えやすくなる、という整理です。
はじめに
発達障害の説明の中で「実行機能の問題」という言葉が出てくることがあります。
ただ、実行機能と言われても、日常生活のどの場面と結びついているのか、イメージしにくい場合も少なくありません。
この記事では、実行機能の基本的な仕組みを、ワーキングメモリ・抑制制御・認知的柔軟性という三つの要素から整理します。
そのうえで、ASDやADHDではどのように困難が現れやすいのか、料理や片付け、会話、仕事といった日常の場面と結びつけて考えていきます。
また、当事者としての体験を手がかりに「改善しやすい部分」と「構造的に残りやすい部分」を分けて捉え、実行機能のどこに負荷がかかっているのかを整理する視点も紹介します。
※当事者視点の整理です。診断や治療を代替できません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。
実行機能とは?
実行機能は、脳の「管理職」にあたる働きです。
複数の情報を整理し、優先順位をつけ、行動をコントロールするための土台になります。
目標を設定し、必要な手順を選び、その通りに実行し、必要に応じて調整する、こうした一連のプロセスを支えているのが実行機能です。
実行機能の3つの要素
認知心理学の研究では、実行機能は大きく3つの要素に分けられると考えられています(Miyake et al., 2000)。
ワーキングメモリ(情報の保持と操作)
たとえば、頭の中で情報を
- 一時的に保持しながら
- 別の作業を行い
- 必要なタイミングで取り出す
こうした働きを支えるのがワーキングメモリです。
例として、次のような場面で使われています。
- 電話番号を聞いてメモを取る
- 料理の手順を覚えながら複数の工程を進める
抑制制御(衝動を抑える)
たとえば、行動するときに
- やりたいことを我慢して、優先すべきことを優先する
- 目先の刺激に引っぱられず、計画通りに行動する
- 感情的な反応を抑える
こうした働きをまとめて抑制制御と呼びます。
例として、次のような場面で働いています。
- 「後でやろう」と思っていたことをあえて先に片付ける
- 衝動的に反応しそうなときに踏みとどまる
認知的柔軟性(切り替え)
たとえば、目の前のことに対して
- 状況の変化に合わせて行動を調整する
- 思考の枠組みを変更する
- 予定変更に対応する
これらが「認知的柔軟性(切り替え)」の部分です。
予定が急に変わったときや、別の方法を試す必要が出たときに使われる機能です。
ASD・ADHDと実行機能
実行機能の困難は、ASD・ADHDで現れ方が異なることが研究で示されています。
ASDの場合
ASDの場合、手順変更やイレギュラーへの対応で負荷が大きくなりやすい傾向が報告されています(Hill, 2004)。
特に認知的柔軟性(切り替え)の部分で困難さが生じやすいとされています。
また、複数の情報を統合して全体像を把握することにも負荷がかかりやすく、ワーキングメモリよりも「柔軟性」と「統合」が課題になりやすい傾向があります。
ADHDの場合
ADHDの場合、注意の維持、忘れ物、衝動性、優先順位づけの混乱が中心的な困難として知られています(Barkley, 1997)。
ワーキングメモリの情報が抜け落ちやすい、抑制制御が働きにくいといった特徴が目立ちます。
結果として「覚えていたのに忘れる」「やろうと思っていたのにできない」という体験につながりやすくなります。
これらは、実行機能の中でも特にADHDと関連が深いと説明されることが多い領域です。
同じ「実行機能の困難」でも、背景のパターンが異なるため、必要な支援や工夫も変わってきます。
日常生活での実行機能
実行機能は、日常の具体的な行動の中で働いています。
料理
レシピを保持しながら複数の工程を進める作業です。
途中で段取りが変わったり、材料が足りないことに気づいたりすると、柔軟性が求められ、難しくなる場合があります。
片付け
分類し、優先順位を決め、捨てる・残すを判断しながら動く作業です。
また、片付け始めるには注意の維持が必要です。
複数の判断が重なるため、実行機能への負荷が高い領域です。
会話
相手の話を保持しながら、自分の返答を組み立てる。
別の話題に切り替えるときにも柔軟性が必要です。
相手の表情や声のトーンも同時に処理する場合、さらに負荷が増えます。
仕事
複数タスクの切り替え、優先順位づけ、期限管理など、実行機能をまとめて使う場面が多くなります。
予定外の対応が入ると、さらに負荷が大きくなります。
よく聞かれる当事者の体験から
実行機能の困難は、人によって現れ方が異なります。
よく聞かれる体験としては、以下のようなものがあります。
決まった手順だと安定する
ルーチンがあると、保持や切り替えの負荷が減り、作業が安定しやすくなります。
毎日同じ流れで準備をする、決まった時間に決まったことをするといった工夫が有効です。
途中で予定が変わると混乱しやすい
イレギュラーが入ると、認知的柔軟性への負荷が大きくなります。
A→B→Cと進む途中で別の要素が入ると、元の予定が頭から抜けてしまうことがあります。
視覚的な情報の方が理解しやすい場合がある
言葉だけで説明されるより、図や表、チェックリストがあると情報を保持しやすくなります。
視覚化によってワーキングメモリの負荷を減らすことができます。
複数のことを同時に意識するのが難しい
ワーキングメモリの容量に制約があるため、一度に複数の情報を保持しながら作業することが難しい場合があります。
一つずつ順番に処理する方が安定します。
こうした体験は、実行機能の「保持」「切り替え」「統合」の負荷と関連している場合があります。
当事者として感じたASDとADHDの違い
私はASDとADHDの併存という前提で、薬物療法を受けた経験があります。
この内容は、一例のASD当事者の体験の整理であり、薬物療法を推奨する意図はありません。薬物療法だけが解決策とは限らず、人によって効果も異なります。治療については必ず医師や専門家の見解に従ってください。
その前提で、薬を飲んでいた時期にはっきりと変化を感じた場面がありました。
それは、部屋の散らかり方への気づき方と、その後の行動までの流れです。
部屋の散らかりに
- 「気づく」
- 「片付けた方がよい」と考える
- 「実際に動く」
という一連の流れについては、改善を実感しやすい部分でした。
一方で、「複数の一連の流れをつなぐ」ときは、以前とあまり変化を感じませんでした。
これは私の感覚ですが、
- 「問題に気づいて行動する」までの部分はADHD的な不注意に関連し、
- 「複数の流れをつなぐ」部分はASD的な情報処理のスタイルに関連している
かもしれません。
このように、自分の体験を「どの機能の問題か」という視点で整理すると、実行機能のどこに負荷があるのか把握しやすくなります。
工夫とサポート
実行機能の困難は、外部の工夫でかなり軽減できます。
視覚化
手順を図やリストで外に出すことで、保持の負荷が減ります。
付箋、手帳、スマホのメモ機能などが使えます。
構造化
作業を順番が明確な形に分解し、入れ替えできるようにします。
物を置く位置など、明確な形の動作は必ず手順を固定しておき、作業は手順同士を組み合わせて行う、とする考え方です。
切り替え時の負荷が軽くなり、ルール化や手順書などが有効です。
外部記憶
メモ、リマインダー、タイマー、進行チェックリストなどを使い、頭の中だけで保持しない設計にします。
スマートフォンのアラーム機能やカレンダーアプリも活用できます。
環境の調整
意識してしまうような刺激を減らし、迷わず動ける環境に整えます。
作業場所の整理、不要な通知をオフにする、静かな場所で作業するといった工夫が考えられます。
これらは、当事者研究や支援の現場で広く使われる実践的な方法です。
まとめ
- 実行機能は、行動や思考の「司令塔」にあたる機能で、ワーキングメモリ・抑制制御・認知的柔軟性の3つで構成されている
- ASD・ADHDでは、困難の中心となるポイントが異なり、日常生活に直接影響します
- 工夫としては、手順を外に出す、優先順位を明確にする、切り替えの負荷を減らす
自分の困難がどの要素と関連しているかを知ることで、より効果的な対策を見つけやすくなります。
困ったときの相談先(公的機関)
- 「各自治体の発達相談窓口」→「※お住まいの自治体の公式サイトをご確認ください」
- お住まいの福祉相談窓口では、発達特性に関する相談や支援の案内が受けられる場合があります。
- 「発達障害者支援センター」→「https://www.rehab.go.jp/ddis/」
- 特性に基づく相談ができ、生活・家族・就労など幅広い支援に対応しています。
※当サイトはこれらの運営団体とは直接の関係はありません。また、必要に応じて医師や専門家にご相談ください。
参考文献
Miyake, A., Friedman, N. P., Emerson, M. J., Witzki, A. H., Howerter, A., & Wager, T. D. (2000). The unity and diversity of executive functions and their contributions to complex frontal lobe tasks: A latent variable analysis. Cognitive Psychology, 41(1), 49–100.
Hill, E. L. (2004). Executive dysfunction in autism. Trends in Cognitive Sciences, 8(1), 26–32.
Barkley, R. A. (1997). Behavioral inhibition, sustained attention, and executive functions: Constructing a unifying theory of ADHD. Psychological Bulletin, 121(1), 65–94.
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