※本記事は当事者が個人的にまとめた解説です。また、個人的な体験や感想であり、診断・治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。診断や治療を決めるものではありません。
はじめに
これまで、日常生活の中で「全体が見えない」「情報を同時に扱えない」といった、目に見えにくい困難を感じてきました。
たとえば、何かを説明されるときに「これとこれを同時にやってね」と言われると、片方に意識が集中してしまい、もう一方を忘れてしまう。
話の流れが急に変わるとついていけず、置いてけぼりになることもありました。
ですがあるとき、WCC(ウィーク・セントラル・コヒーレンス)仮説という理論に出会ったことで、自分の脳の「情報処理のクセ」がようやく説明できるようになったのです。
この記事では、私がその特性に気づいた経緯と、日々の生活でどのような工夫をしてきたのかをご紹介します。
WCC仮説とは?
WCC仮説とは、「弱い中枢性統合(Weak Central Coherence)」という考え方で、ASDの人が細部に注目するのは得意だけれど、情報を全体としてまとめるのが苦手であることを説明する理論です。
簡単にいえば――
パズルのピースは1枚ずつよく見える。でも、完成図が頭に浮かばない。
私の場合もまさにこの状態で、視覚的な情報を同時に2つ以上保持できず、1つのイメージに集中すると、もう片方が頭から抜け落ちてしまうような感覚がありました。
それまでずっと「自分は要領が悪いだけだ」と思っていたものが、脳の特性であると知って、衝撃と同時に安心も感じました。
WCCに気付くまでの困りごと
- 会話の中で複数の目的が含まれると、1つに集中しすぎてもう片方を忘れる
たとえば「この本を読んだら、あとで感想も言ってね」と言われると、「読むこと」に意識が集中してしまい、「感想を言う」ことをすっかり忘れてしまう。 - ストーリー全体をうまく説明できない
映画や小説の話を説明するときに、「あれ、どこから話せばいいんだっけ…」と混乱してしまい、登場人物の行動や場面をバラバラに語ってしまう。
相手から「結局どういう話?」と聞き返されることも多く、自信を失いがちでした。 - 一緒に済ませれば効率的な作業が、別々になってしまう
たとえば、ゴミを捨てに行くときに「ついでに郵便も出そう」と思っていても、ゴミのことだけを意識して家を出てしまい、ポストに寄らずに戻ってきてしまう…。
「二度手間だったな」と後で気づいて自己嫌悪、というパターンです。
以前はこれらを「努力不足」「記憶力の問題」「コミュニケーション能力の欠如」と思っていましたが、WCC仮説を知ってからは、それが“特性”だと理解できたことで、見え方が変わりました。
理解したことで変わったこと
- 「なぜうまくできないのか」が明確になり、自己否定が減った
努力しても改善しなかったのは、単なる怠けではなかったと分かりました。 - 対策を感覚や勘に頼らず、“理屈”に沿って考えられるようになった
「一度に処理できないなら、順番に処理するにはどうすればいいか?」と考えるようになりました。 - 相手とのズレに気づけるようになり、行き違いを減らせた
たとえば、相手が「話しててつまらなそうな顔をしてる」と感じたとき、以前なら「嫌われた」と思い込んでいました。
今は「もしかしたら話が長すぎた?」「途中で相手が言おうとしてたことを遮った?」と可能性を冷静に考えるようになりました。
私がしてきた主な対策の一部
情報の外部化
- 自分の頭の中で同時に保てない情報を、物理的な形で外に出すようにしています。
- メモ、付箋、スマホのリマインダー、ToDoリストアプリなどを使って、やることを「見える形」にすることで、同時処理の負荷を下げました。
作業環境を整理
- デスクの上に物が多いと、視覚的な情報が多すぎて集中できないため、使うものだけを置くようにしました。
- ノイズキャンセリングのイヤホンや、作業するときはきちんと整理してから行うなど、視覚・聴覚の刺激を減らす工夫を取り入れています。
曖昧な表現を1つずつ学習してコミュニケーションを改善
- 会話の中で出てくる曖昧な言葉や間接的な表現を、1つの情報として個別に学習するようにしました。
- たとえば、「へー」という相づちが、「本気で関心がある」わけではなく、“話半分”の意味で使われることもあると知ったことで、会話中の違和感やズレが減ってきました。
- 「表情+言葉」や「言葉の裏の意図」なども、1つずつ覚えていくことで、同時に複数の意味を推測する負担を減らしています。
今後も続けたい工夫
WCCの傾向そのものが完全になくなることはないかもしれません。
ですが、自分の特性を理解し、それに合わせた工夫を積み重ねていけば、日常のストレスは確実に減らせるという実感があります。
また、同じ特性を持つ人どうしで情報を共有することも、大きな支えになります。
まとめ
- WCC仮説は、ASDの情報処理の特徴を説明する仮説の1つです
- 自分の特性を理解すると、「努力ではどうにもならなかった理由」が見えてきます
- 対策は、情報を外部化する/環境を整える/1つずつ学習することが鍵
- 無理に「普通に近づく」のではなく、自分に合った処理の仕方を作っていくことが、より良く生きるヒントになります