「ASDノート」こだわり・常同行動実行機能・不注意・衝動性易刺激性

自閉スペクトラム症(ASD)の「自閉性慣性(オーティスティック・イナーシャ)」|止められない・動けないの整理

自閉性慣性(イナーシャ)をイメージした自転車のイラスト|ASDの「中断できない」「動き出せない」を整理する記事 「ASDノート」
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この記事の結論

行動が切り替えられない状態は、意思ややる気の問題だけでは説明しきれませんが、自閉性慣性(オーティスティック・イナーシャ)で説明できる場面があります。

それは注意が今に集中し、分岐(切り替え)がうまく働いていない可能性がある、といった当事者視点の整理です。


はじめに

自閉性慣性(オーティスティック・イナーシャ)とは

自閉性慣性とは、多くのASD当事者が、一度始めた行動を「止める」「切り替える」ことに強い困難を感じる状態を指す説明です。

これは、物理法則の「慣性の法則」で困難を例えたものです。

  • 「やる気が出ない」
  • 「だらけている」

という評価とは別で、行動の「切り替えコスト」に重さがある、といった視点で考えることができます。

モノトロピズムにおいては、「注意のトンネル」に深く入っているほど、この切り替えの重さは強くなる傾向があると説明できるかもしれません。


よく使われる説明「慣性の法則」

自閉性慣性は、物理学の慣性の法則になぞらえて説明されることが多いです。

静止の慣性

止まっている物体は、外部から力を加えない限り止まり続ける(動き出しの困難)。

運動の慣性

動いている物体は、摩擦や抵抗がない限り動き続ける(過集中や止まれない状態)。

この説明の良い点は、「やる気」や「性格」の問題ではなく、物理法則のような力が働いている状態として理解できるところにあります。


ゲームの「中断できない」

ゲームは、止まりにくい条件が揃いやすい活動です。

  • 次の目標や報酬がすぐ提示される
  • 明確な終わりがなく、流れが連続している
  • 途中で止めると「中途半端さ」が残る

この構造の中では、「続ける」よりも「止める」判断の報酬が少なく感じているのかもしれません。

その結果、やめる判断自体が先送りされやすくなると思います。

さらに、集中している時は時間の経過があいまいになります。

「あと5分だけ」と思ってから、いつの間にか1時間以上続けてしまうなど、ゲームに限らず、こうしたことが自閉性慣性のあるあるパターンかもしれません。


次を「始められない」

ゲームを中断できない話をしましたが、今度は「お風呂に入らなきゃいけないのに一歩も動けない」といった「始められない」経験はないでしょうか。

これも「止まっているものは止まり続ける」という自閉性慣性の一種かもしれません。

これは「嫌だから」ではなく、止まっている状態からの動き出しに大きなエネルギーが必要になっている状態かもしれません。

同じように、「10時から用事がある」と分かっていると、朝からその時間まで何も手につかなくなる現象も、次の予定に向けて慣性を維持しようとしている、という見方ができます。


交差点とハンドルの比喩

私の感覚では、この状態はブレーキよりもハンドルに近いです。

たとえば、

  1. 直進することばかりに意識に集中してしまい、
  2. 曲がるという選択肢が意識の上で弱くなり
  3. 結果としてハンドル操作をしないまま(新しい行動に入らない、何もしない)、
  4. 慣性のように直進(行動をやめられない、目の前の作業を続ける)

してしまいます。

止まる必要が分かっていないわけでも、曲がりたい意思がないわけではなく、分岐点で「曲がる」という選択肢の意識が薄いため、結果として直進が続いてしまう感覚があります。


中断時の「衝撃」について

これは例えですが、外部から急な中断が発生すると、それは慣性が働いたまま「衝撃」を受けて停止する感覚に近いと思います。

お互いに悪気はなくても、「慣性が働いている集中状態」への急な声かけや割り込みは、この「衝撃」として作用し、負担や不快感として残ることがあるかもしれません。

不機嫌になってしまうのは、性格の問題というより、急停止による反動に近い感覚です。

そのため、可能であれば周囲に、「事前に予告があると負担が少ない」ことを伝えておくとよいかもしれません。

たとえば、

  • 「あと20分後ね」
  • 「もうそろそろだよ」
  • 「あと少ししたら声をかけるね」

といった形で「徐々に減速できる合図」をお願いする、といった考え方も一つの工夫になると思います。

伝えたとしても必ず配慮が得られるとは限りませんが、「なぜ辛いのか」の理由を共有しておくだけでも、お互いの受け止め方が少し違ってくるかもしれません。


対策の入口(参考)

私の対策としては、

  • 気づいたタイミングで思い切って切り替える習慣を作っておくことや、
  • 事前に次の作業に1分でも触れておくことで、

切り替えが楽になると感じる場面がありました。

慣性さえ働いてしまえば、あとは動くことはできる、という考え方です。

そのため、慣性自体を止める習慣や、弱い力でも切り替えやすい状況を作っておくとよいかもしれません。

ただし、これは私の体験に基づくもので、効果には個人差があります。


まとめ

  • 自閉性慣性(オーティスティック・イナーシャ)は「止まれない問題」「動けない問題」
  • 行動の切り替えコストが高い状態として整理できる
  • 目の前に注意が集中し、慣性が切り替わらない現象として捉えられる

自閉性慣性は、困りごとの性質を理解するための説明の一つです。

この特性は、一度動き出せば、他の人が飽きてしまうような作業でも驚くほど集中して続けられる、といった側面もあると思います。

「対処しなければならない」ではなく、「理解のための知識」として、頭の片隅に置いておくくらいの距離感がちょうどいいのかもしれません。


※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。