この記事の結論
自閉スペクトラム症(ASD)当事者は、モノトロピズムによる「注意のトンネル」構造が強いと、本来の目的である「相手との交流」よりも、「言葉の意味を正しく理解すること」が優先されやすくなります。
その結果として、「冗談をそのまま受け取ってしまう」、「会話の流れが止まってしまう」といった「目的のすり替わり」の構造を、ASD当事者としての視点から整理します。
はじめに
多くの自閉スペクトラム症(ASD)当事者の中には、
- 冗談をそのまま受け取ってしまう
- その場だけ空気が固まってしまう
といった経験があるかもしれません。
これを「冗談が苦手」「空気が読めない」といった現象で説明されることが多いと感じます。
しかし、現象を「特性の違い」から説明すると、また違った視点を持てるかもしれません。
ここでは、モノトロピズム(注意の向きやすさの特性)という考え方を使って、なぜ「会話の目的そのもの」が見えにくくなるのか、という点を整理していきます。
「ポリトロピック」と「モノトロピック」
今回のテーマは、「注意の向き方の違い」です。
専門用語だけを見ると難しそうですが、ここではよく使われるイメージである「トンネル」と「広場」を使って考えていきます。
ポリトロピック
ポリトロピックは「多方向注意」のことであり、「広場全体が見えている」イメージに近いかもしれません。
たとえば、
- 「広い場所を見渡すように、周囲の情報を同時にざっと把握できる」
- 「周りの反応や空気を、自然に拾いやすい傾向がある」
といった特徴があります。
会話の場面では、マルチタスクの傾向があり、次のように、
- 相手の声のトーン
- 表情やしぐさ
- その場全体の雰囲気
- 話の「流れ」
といったように、情報を同時に扱う傾向があります。
冗談などは、広場の中で「場を和ませるための道具」として機能しているイメージかもしれません。
モノトロピック
モノトロピックは「単方向注意」のことであり、「トンネルを通して見えているときがある」イメージに近いかもしれません。
たとえば、
- 視野は狭いが、目の前の一点に強く集中する、
- トンネルの外の「空気」や「雰囲気」が入りにくい、
といった特徴があります。
会話の場面では、情報がシングルタスクの傾向があり、次のように、
- 言葉の意味
- 事実関係
- 論理の整合性
といったように、情報を一点集中で扱う傾向があります。
ポリトロピックの人にとっての会話
ポリトロピックの人にとっては、会話は「広場を見て行っている」イメージかもしれません。
ここで重視されているのは、
- 「どれだけ正確に解釈したか」ではなく
- 「場の流れがスムーズに続くかどうか」
です。
冗談は、この「流れを保つ」「雰囲気を軽くする」ための一つの手段として使われます。
もしかしたら、言葉そのものよりも「その場でどう扱うか」が重視されているのかもしれません。
ズレは「特性の違い」から生じる
こういった困難は、ズレの起きているときは、
- 冗談を理解できない、
- 空気を読む能力が欠けている、
といった現象として理解されることが多いかもしれません。
しかし本質は、「会話を目的として扱う以前に、言葉自体が目的として扱われている」、といった構造が背景にあるかもしれません。
そのため、これらは「能力の有無」というよりも、
- 注意の向き方、
- 処理の優先順位、
といった「特性の違い」として捉えるほうが、実態に近いのではないかと感じています。
モノトロピズムの本質
目的のすり替わり
整理すると、コミュニケーションにおいてモノトロピズムの重要なポイントは、次の1つだと私は考えています。
- 一点集中が強いと、本来の目的(会話のキャッチボール)が、より狭い目的(意味の解釈など)に置き換わりやすい。
多くのASD当事者が冗談でズレやすいのは、
- 「冗談が理解できない人」だからではなく、
- 「意味解析が優先されている」、
といった説明のほうが、現象に近いと私は考えています。
一点集中は「トンネルを掘り進めるイメージ」
私はモノトロピズムの一点集中の特性について、「トンネルを掘り進めるイメージ」がわかりやすいと感じました。
たとえば、
- 「空気が読めない」といった現象などは、
- 「特性の違い」によって、
- 「トンネルを掘り進める」傾向がある、
といった視点が持てると思います。
周囲の人にとっても、
- 「意味のほうに自動的に集中してしまうんだ」、
といった理解が生まれるかもしれません。
ここで言うモノトロピズムの本質とは、「注意が一点に集中することで、会話の目的そのものが狭く定義されやすい」点です。
この仕組みを知る意味
もちろん、この仕組みを知ったからといって、明日から急に「広場」が見えるようになるわけではないかもしれません。
私は今でも、会話の最中に「トンネルを掘り進み」、結果としてズレてしまうことがあります。
ただし、
- 以前は「なぜズレたのかわからない」といった場面が、
- 今は「またトンネルを掘り進んだ」、
といった視点を持てると感じました。
現象の意味づけが変わることで、「注意の特性」として扱うという、少し違った視点を持てるかもしれません。
まとめ
- モノトロピズムは、注意の「トンネル」を説明する考え方
- 会話では、本来の目的である「交流」よりも、「意味解析」が優先されやすい
- その結果、冗談の理解がズレたり、会話が止まったりすることがある
- これは「能力の問題」ではなく、「注意の向き方の特性の違い」として整理できる
- 「またトンネルを掘り進んだ」と理解できると、違った視点を持てる
モノトロピズムの視点を持つことで、冗談が通じない場面を「能力の問題」としてではなく、「注意の特性が違うから起きている現象」、として扱いやすくなるかもしれません。
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