「当事者の体験」多感覚統合実行機能・不注意・衝動性易刺激性

頭が一気にパンクする感じ|ASD当事者が感じている「処理オーバー」の中身

電卓を手にタスクや予定を整理している女性のイラスト(ASD当事者の処理オーバーを整理するイメージ) 「当事者の体験」
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この記事でわかること

  • どんな場面でパンクしやすいのか
  • そのとき頭の中で何が同時に走っているのか
  • パンク前に気付けるサイン
  • いったん処理を減らすために、実際にやっている工夫

はじめに

  • 「さっきまで普通に動けていたのに、急に頭が真っ白になる」
  • 「やることを考えようとした瞬間、全部いやになって固まる」

ASD当事者の中には、こうした「頭が一気にパンクする」ような瞬間を経験している人がいます。

外から見ると、時には

  • 「急に不機嫌になった」
  • 「サボっている」

と誤解されることがあるかもしれません。

私の感覚としては、頭の中で抱えている処理が限界を超えて、「システムごと一時停止した」というイメージに近いかもしれません。

ASD当事者の視点から、「処理オーバー」と感じたケースを整理してみます。


どんな場面で「頭がパンク」しやすいか

まず、具体的な場面をいくつか挙げます。

どれも「ひとつだけなら大丈夫だが、複数重なると一気に限界を超える」パターンです。

複数のタスクが一度に降ってくるとき

  • メールやLINEの返信
  • その日の用事の段取り
  • 仕事や家事の細かいToDo
  • 「ついでにこれもお願い」と追加される用件

これらが短時間に重なると、

  • 「どれから手をつければいいのか決める処理」と
  • 「全部を頭の中で保持する処理」

が同時に走り、頭の枠をすぐに使い切ってしまう感覚があります。

予定変更が急に入ったとき

  • 「今日これをやろう」と決めていた予定が崩れる
  • 直前になって時間や場所が変わる
  • 急な都合で段取りを組み直すことになる

もともと組み立てていた流れを頭の中で「解体」し、新しい流れを「組み直す」必要が出てきます。

このとき、「元の予定を維持しながら、新しい予定を同時にシミュレーションする」といったことに負担を感じます。

「会話」と「別の刺激」が重なったとき

  • 人と話しながら、スマホや資料の情報も追う
  • 会話中に、周りの音や動きが多い環境にいる
  • 誰かと話している最中に、別の人から声をかけられる

こうした場面では、

  • 相手の言葉の意味を理解する処理
  • 自分が返す内容を考える処理
  • 視覚や聴覚から入ってくる別の情報の処理

が重なります。

結果として、「会話そのもの」ではなく、「同時に処理しなければならない量」が問題になり、頭が突然フリーズしたように感じることがあります。


パンクしているとき、頭の中で何が起きているのか

ここからは、主観的な感覚を言葉にしてみます。

「優先順位を決める枠」が埋まってしまう

やることが多いときにまず必要なのは、「どれから順番にやるかを決める処理」です。

ところが、ASD当事者の中には、

  • 「重要度」や「締め切り」を直感的に並べ替えるのが苦手
  • 条件が増えるほど、比較に時間がかかる

という傾向があります。

その結果、

  1. やることを挙げる
  2. 比較しようとする
  3. 情報が多くて比べきれない
  4. 「決められないまま」頭の中に残り続ける

といったループが起き、頭の枠がどんどん埋まっていく感覚になります。

処理が限界を超える

タスクや情報を扱うときには、

  • Aという情報
  • Bという情報
  • Cという情報

を「同時に頭の中に置いたまま」考える必要がある場面があります。

しかし、ASD当事者の一部では、

  • 「同時に保持できる数が少ない」
  • 「一つを考えていると、もう一つが抜け落ちやすい」

という感覚を持つ人もいます。

そのため、

  • AとBを比べようとしている間にCを忘れる
  • Cを思い出した瞬間、AとBの内容があいまいになる

といったことが起きます。

これが積み重なると、

  • 「どうせ次の瞬間には何かを落とす」
  • 「だったら何も考えたくない」

という感覚に近づき、結果として「思考停止」に見える状態になります。


慌てる直前に出るサイン

完全に慌ててから対処するのは難しいので、「その手前」で気付けるサインを自分なりに把握しておくことが大事になります。

以下は、よく出やすいサインの一例です。

些細なことでイライラし始める

  • 普段なら気にならない音や言動に過敏になる
  • 「責められている」など、結論にショートカットしやすくなる

これらは、「小さい刺激に反応しやすい状態」になっているサインかもしれません。

選べなくなる・決められなくなる

  • メニューや選択肢を見ても、どれにするか決められない
  • 「どっちでもいい」と言いながら、本当はどっちも決めきれない
  • 予定を立てようとして固まる

これらは、「脳の処理特性がすでに限界近くまで埋まっている」といった状況を示している可能性があります。

思考が「全部いや」にまとまってしまう

  • 「もう何もしたくない」と急に感じる
  • 頭の中が目の前のこと以外も「全部いや」で埋まる

普段なら体力や時間の余裕は残っているはずの状況であっても、この段階はすでにかなり危険ゾーンです。

ここから無理に続けると、本格的なパンク(行動停止や体調の悪化)につながりやすいと思っています。


いったん処理を減らすためにやっている工夫

ここからは、実際に役立っている「負担を下げるための工夫」を整理します。

ポイントは、根性だけでがんばろうとするのではなく、「頭が同時に抱える処理そのものを減らす」方向で考えることです。

頭の外にどんどん書き出す

  • やることリスト
  • 気になっていること
  • 忘れたくないメモ

これらをすべて頭の中で保持しようとすると、それだけで「脳の処理」が埋まってしまいます。

そこで、

  • 紙のメモ帳
  • スマホのリマインダー
  • 一旦報告を済ませる

など、なんでもよいので一度外に出すようにします。

書き出すときのコツは、

  • 完璧なリストを作ろうとしない
  • 思いついた順に雑に並べる
  • 後から消したり並べ替えたりしてもよい前提にする

ことです。

「今やるのは1個だけ」と決めてしまう

やることが多いときほど、「同時に複数進めなければ」と考えてしまうことがあります。

しかし、同時進行を意識した瞬間に、

  • タスクA
  • タスクB
  • タスクC

並べて処理し続けることになり、結果的にパンクしやすくなります。

そこで、

  1. リストから「今やるのはこれ1つ」と選ぶ
  2. 他のタスクは一旦見ない(紙を隠す・アプリを閉じるなど)
  3. 1つ終わったら、また次の1つだけを見る

という手順にします。

「同時に3つ進める」のではなく、「1つずつ切り替えて進める」と割り切ることで、頭の中で抱える情報量を意図的に減らします。

予定変更を「すぐには考えない」選択肢を持つ

予定変更が苦手な場合、その場ですぐに新しい段取りを組み立てようとすると、負担が瞬間的に跳ね上がります。

そこで、

  • 「いったん持ち帰って考えます」と伝える
  • その場では詳細を決めず、時間を置いてから整理する
  • どうしても即決が必要な場合は、「今日はここまで」と他の予定を削る前提で受ける

といった「間」を挟む工夫が有効になると感じています。

意識的に「終了条件」を決めておく

処理がパンクしやすい人ほど、

  • いつまでやるのか
  • どこまでやれば今日の分は終わりなのか

があいまいになり、延々と頭を使い続けてしまうことがあります。

そこで事前に、

  • 「この作業は30分だけ」
  • 「今日は1種類の作業だけ」
  • 「3つだけ終わったら、それ以上は明日」

といった終了条件を決めておくと、頭の負荷が高まりすぎる前に自然と区切りを付けやすくなります。


まとめ

ASD当事者の「頭がパンクする」瞬間は、複数のタスクや予定変更、刺激が重なった結果として起きていることが多いと考えられます。

大事なのは、

  • 自分がどんな場面でパンクしやすいかを把握すること
  • パンク直前のサイン(イライラ・決められない)に気付くこと
  • 頭の外に書き出す・1つだけに絞る・リミットを設定すること

といった形で、頭が抱える処理そのものを減らす工夫を持っておくことです。

こうした工夫があっても、負荷が高い日はパンクしてしまうこともあります。

ですが、「なぜこうなるのか」の理解があるだけでも、少しだけ自分への見方が変わるかもしれません。


※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。