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モノトロピズムとは?|ASD当事者が「関心の集中」を整理

モノトロピズムにおける「関心の集中」をイメージして、手の上の地球のイラスト 「ASD理解」
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この記事でわかること

  • モノトロピズムとはどういう理論なのか
  • ASD(自閉スペクトラム症)と「関心の偏り」の関係
  • 多トロピック(polytropic)との違い
  • WCC(弱い中枢性統合)・予測符号化モデルとのつながり
  • ASD当事者として感じる集中・没頭のパターン

はじめに

自閉スペクトラム症といえば、「ASDは興味の幅が狭い」「強いこだわりがある」と説明されることがあります。

こうした特徴の背景を理解する枠組みとして提案されているのが、「モノトロピズム(Monotropism)」 という理論です。

この記事では、モノトロピズムとは何か、ASDとどのように関連すると考えられているのかを、できるだけわかりやすく整理していきます。

また、WCC(弱い中枢性統合)や予測符号化モデルなど、他の理論との関係についても触れていきます。

なお、モノトロピズムは比較的新しい理論であり、研究者の間でも議論が続いている段階です。

※当事者視点の整理です。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。


モノトロピズムと当事者研究者

「モノトロピズム(Monotropism)」とは、人の注意や興味の分配の仕方には個人差があり、ASDでは「一点集中型」になりやすいという理論です。

この理論は、Dinah Murrayらによって提案されました。

また彼女は、「autistic autism researcher(自閉症の自閉症研究者)」と紹介されています。

また、モノトロピズム理論の共同開発者であるWenn Lawsonも当事者です。

つまり、モノトロピズムは当事者の視点から生まれた理論という特徴があります。

注意の幅と流れ「アテンション・トンネル」

モノトロピズムでは、ASDの人の注意の特徴を「アテンション・トンネル(attention tunnel)」という言葉で表現することがあります。

トンネルの中は明るく見えるけれど、トンネルの外は暗くて見えにくい、というイメージです。

具体的には、次のような傾向があるとされます。

興味の対象には非常に強く集中できる一方で、それ以外の情報が入りにくくなります。

また、興味の切り替えが難しく、一度集中すると別のことに移るのに時間がかかります。

つまり、モノトロピズムは「こだわり」や「興味の狭さ」を、注意の幅と流れの特性として説明しようとする理論です。


多トロピック(polytropic)との比較

モノトロピズムを理解するには、対になる概念である「多トロピック(polytropic)」と比較するとわかりやすいです。

多トロピックとは、複数の対象に同時に注意を分散できる傾向のことです。

一般的に、多数派の人はこの多トロピックな傾向が強いとされています。

モノトロピック(monotropic)の特徴

モノトロピックな注意スタイルでは、一点に集中する力が強いです。

興味のある対象には深く没頭でき、長時間でも集中を維持できます。

一方で、興味の切り替えが苦手で、急な予定変更に強い抵抗を感じることがあります。

また、複数の情報が同時に来ると、処理が追いつかなくなることがあります。

多トロピック(polytropic)の特徴

多トロピックな注意スタイルでは、複数の刺激を同時に見渡すことができます。

興味の切り替えも比較的スムーズで、状況の変化に対応しやすいです。

深い没頭よりも、全体の状況を把握することに注意が向きやすいとされます。


ASDとモノトロピズムの関係

研究的にはまだ議論が続いている段階ですが、ASDではモノトロピックな注意の特徴が多いという報告があります。

たとえば、好きなテーマであれば何時間でも集中できるのに、興味のないことはほとんど頭に入らない、という経験は多くの当事者が語っています。

また、予定変更に強い抵抗が出るのは、「わがまま」や「融通がきかない」のではなく、注意の切り替えが難しいという仕組みの問題として理解できます。

同時に複数の刺激が来る状況が苦手なのも、モノトロピックな注意スタイルで説明がつきます。

モノトロピズムはASDの「こだわり」や「興味の偏り」を「意志や性格の問題ではなく、注意の仕組みの違い」として整理する枠組みを提供しています。


WCC・予測符号化モデルとのつながり

ASDの認知特性を説明する理論には、モノトロピズム以外にもいくつかあります。

ここでは、WCC(弱い中枢性統合)と予測符号化モデルとの関係を整理します。

WCC(弱い中枢性統合)との関係

WCCは、「全体よりも部分に注意が向きやすい」というASDの特性を説明する理論です。

モノトロピズムの「注意の幅が狭い」という特徴は、WCCと整合性があります。

注意のトンネルが狭いために、全体を見渡すよりも、目の前の部分に集中しやすくなる、と考えることができます。

つまり、WCCで言われている「部分処理の強さ」は、モノトロピズムの観点からは「注意の集中範囲の狭さ」として説明できます。

予測符号化モデルとの関係

予測符号化モデルでは、ASDでは予測の立て方や予測エラーの処理に特異性があると考えられています。

これをモノトロピズムと組み合わせると、次のような推論が可能です。

興味のある対象については、過去の経験が豊富なので予測が立てやすく、処理が安定します。

一方、興味のない対象については、経験が少ないため予測が立ちにくく、処理の負荷が高くなります。

そう考えると、「興味のある対象に集中する」という行動は、予測が立てやすい領域に注意を向けることで、脳の負荷を下げる戦略として理解できるかもしれません。

ただし、これはあくまで仮説的な推論であり、研究で実証されているわけではありません。


生活で起きやすい現象

モノトロピズムの視点から見ると、日常生活で起きやすい以下のような現象を整理しやすくなります。

興味の対象には深く没頭できる一方で、複数の情報が同時に来ると処理が落ちることがあります。

スケジュールの変更がストレスになりやすいのは、注意の切り替えに負荷がかかるためと考えられます。

「いまやっていること」を中断されると強い不快感を覚えるのも、同様の理由です。

また、興味のないことは記憶に定着しにくく、何度聞いても覚えられないことがあります。

これらは「やる気がない」「努力が足りない」のではなく、注意の仕組みの違いから生じる現象として理解できます。


当事者として感じる「集中と没頭」

私自身、一点集中の傾向は確かに強いと感じています。

興味のあるテーマに取り組んでいるときは、何時間でも集中できます。

その状態は心地よく、処理もスムーズに進みます。

一方で、別の刺激が入ると、急に処理が乱れることがあります。

いま考えていたことが飛んでしまったり、情報の比較ができなくなったりします。

これは、注意のトンネルの外から情報が入ってきたときに、うまく処理できないからだと思っています。

また、興味のない領域では、予測が立たないためか、同じことをするのでもずっと疲れやすいです。

逆に言えば、興味のある領域に集中することは、予測が安定している領域に留まることで負荷を下げるという意味があるのかもしれません。

このモデルを知ったことで、「なぜ自分は切り替えが苦手なのか」「なぜ興味がないと極端にパフォーマンスが落ちるのか」を、少し客観的に理解できるようになった気がします。


まとめ

  • モノトロピズムとは、「注意の幅と集中の仕方」を説明する理論
  • ASDではモノトロピック(一点集中型)な注意スタイルが多いとされる
  • 多トロピック(多方向に注意を分散)と対になる概念
  • WCCや予測符号化モデルとも整合性がある
  • こだわりや予定変更の苦手さを、意志ではなく注意の仕組みの違いとして整理できる

行動そのものではなく、注意の仕組みとして整理することで、日常で起きやすい負荷やズレの理由が見えることがあります。



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