※本記事は当事者が個人的にまとめた解説です。また、個人的な体験や感想であり、診断・治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。診断や治療を決めるものではありません。
はじめに
EPF仮説(Enhanced Perceptual Functioning hypothesis、知覚機能強化仮説)は、自閉スペクトラム症(ASD)の人の認知特性を説明するために Laurent Mottron らが提唱した理論です。
内容を整理すると、次のようになります。
1. 背景
ASDの情報処理に関しては、従来から「弱い中枢性統合(WCC仮説)」や「社会的動機づけ欠如説」などが知られていますが、
EPF仮説は「弱さ」ではなく知覚能力の強化というプラス方向の特性から説明する点が特徴です。
2. 仮説の内容
- ASDの人は、局所的な知覚処理や低レベルの知覚的情報処理が強化されている。
- 特に、視覚・聴覚・パターン認識など、感覚入力の初期段階の処理が優れている傾向がある。
- そのため、細部の違いに敏感だったり、背景の中から特定のパターンや音を素早く見つけられることがある。
- 強化された知覚処理は、言語や社会的処理よりも優先的に動員される傾向がある。
3. 実験的根拠
Mottronらの研究では、ASD群は以下のような課題で定型発達群より高い成績を示すことが報告されています。
- Embedded Figures Test(背景の中から特定の形を見つける)
- ピッチや音色の微細な違いの識別
- 視覚的パターンの記憶再生
- 逆像や回転図形の認識
4. 他理論との違い
- WCC仮説は「全体よりも部分に注意が偏る」という弱点寄りの説明
→ EPF仮説は「部分処理の優秀さが基盤」という長所寄りの説明 - 社会的動機づけ仮説は、社会刺激への興味低下を中心に説明
→ EPF仮説は、知覚優先処理が結果的に社会的情報処理を後回しにする、と捉える
5. 実生活への影響
- アート、音楽、設計、プログラミングなど細部重視の分野で強みを発揮しやすい
- 一方で、知覚優先のために全体の文脈理解や社会的合図の見落としが起こりやすい
- 感覚過敏や感覚志向行動(特定の音や光に惹かれる)も、この知覚特性と関連している可能性がある
まとめ
- 提唱者:Laurent Mottronら(2000年代初頭〜、2006年に理論化)
- 特徴:ASDを「弱さ」ではなく知覚能力の強化として説明
- 中核:視覚・聴覚など低レベル知覚処理の優秀さ
- 根拠:パターン認識や音の微細識別などで定型発達群より高成績
- 他理論との違い:
- WCC仮説:部分志向を弱点視 → EPFは長所として評価
- 社会的動機づけ仮説:興味低下説 → EPFは知覚優先処理による結果と説明
- 生活面での影響:細部重視の分野(アート・音楽・設計等)で強み/文脈理解や社会的合図の見落としリスクあり
- 関連特性:感覚過敏や感覚志向行動との結びつき