※記事で触れる課題(ストループ課題・語の流暢性・ハノイの塔など)は私的な体験の例示であり、診断や評価を定めるものではありません。この記事は当事者が個人的にまとめた解説です。また、個人的な体験や感想であり、診断・治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。診断や治療を決めるものではありません。
はじめに
私は自閉スペクトラム症(ASD)と診断されています。幼少期には言葉のつまずきを指摘され、現在は弱い中枢性統合(WCC)と実行機能(EF)に負荷がかかりやすいという自覚があります。
本稿では、私の体験を軸に実行機能とは何かをやさしく整理し、読者が自分の困りの“理由”を見つけられるようにまとめます。
実行機能とは(本稿での扱い)
学術的にはいくつかの切り分けがありますが、ここでは思考・感情・行動をうまくコントロールする力として扱います。主に次の働きが関わります。
- 抑制:衝動や“つい反応”を止める
- 切替:やり方や視点を切り替える
- 作業記憶と更新:頭の中で情報をしばらく保ち、入れ替えながら使う
- 開始・持続:始めるきっかけをつくり、止まらずに続ける
- 計画・モニタリング:見通しを立て、進み具合を確かめて調整する
私の実行機能プロファイル(体験)
抑制のむずかしさ:ストループ課題
色名が書かれた文字の**「インクの色」を読む課題では、私は文字の意味を読んでしまう誤りが目立ちます。日常でも、早とちりの返答や言い切ってしまう**失敗につながりやすいところです。
取り出しのむずかしさ:語の流暢性
「○行で始まる言葉をできるだけ挙げてください」などの語の流暢性課題では、数が伸びません。知っているはずの語がその場で出てこない感覚があります。
→ 私の場合、検索の戦略を立てる/切り替えるところに負荷がかかっているようです。
計画は比較的保たれる:ハノイの塔
一方でハノイの塔のような手順を積み重ねるタイプの課題は、比較的スムーズに進みます。
→ 計画や手順の組み立ては相対的に保たれている可能性があり、上の二つ(抑制・取り出し)と強弱の差があると感じています。
WCCとの重なり(ひとこと)
私には、細部に先に目が行き、全体像として整理するのに時間がかかる傾向があります。これが実行機能の負荷(とくに切替・作業記憶)と重なると、一度に複数の条件を扱う場面が急に難しくなります。
よくつまずく場面と“理由の切り分け”
- 会話での“食い気味”の応答 → 抑制/作業記憶(最後まで保持して待つのが重い)
- 思いつきで着手→脱線 → 抑制/切替(目的の保持が薄れる)
- 語が出てこない・話が途切れる → 取り出し戦略/更新(検索の道筋が貧弱)
- 三人以上の場で迷う → 作業記憶/切替(誰の意見かを保ちながら切り替える負荷)
- 予定の見積もりミス → 計画・モニタリング(途中確認の抜け)
「できない」ではなく、どの働きに負荷が集中しているかを見極めると、対処が選びやすくなります。
簡単な対策の“やり方”集(すべて短時間で実行可)
抑制に課題があるとき
- 3拍置いてから話す:「聞く→要点を心の中で言う→一言で返す」
- 手を動かす前に“合言葉”:「目的は何?」と声に出さずに問いかける
- 視覚サイン:モニター端などに抑制したい動作の流れ(例:止→目的→一言)の付箋やメモ
開始・持続が難しいとき
- 2分だけ着手:キッチンタイマーで120秒だけ動く(多くはそのまま続けられる)
- 動詞で書く:「レポート」ではなく「表紙に日付を書く」のように最初の動きを明示する
- 短い区切り:25〜35分+小休止5〜8分を2本繰り返し、小さな達成を刻む(ポモドーロ・テクニック)
ミニ自己チェック(主観でOK)
- 反射的に返事をして後悔しやすい(抑制)
- 予定の切替で立ち上がりに時間がかかる(切替)
- 話を聞きながらメモが追いつかない(作業記憶・更新)
- 着手が遠い/一気にやって燃え尽きる(開始・持続)
- 途中で方向確認をし忘れる(モニタリング)
2つ以上当てはまるなら、上の「やり方」を1つだけ(欲張らず)試してみてください。
まとめ
- 私の場合、抑制と語の取り出しに負荷がかかりやすく、計画は比較的保たれている——という凸凹の組み合わせがありました。
- 大事なのは、どの働きに負荷があるかを見極め、短い手順で補うこと。
- ポモドーロ・テクニックなど、小さなやり方で実行機能の負担は目に見えて軽くなります。