この記事でわかること
- 「わかってるのに動けない」がなぜ起きるのか
- ASD研究で報告されている認知スタイルの特徴
- 「理解できない」のではなく「つなげるのに時間がかかる」ということ
- 周囲に誤解されやすい理由
- 時間差とプリセット化で「つなぎ目」を補う工夫
この記事の結論としては、
「わかってるのに動けない」は、①理解力の問題ではなく、②情報のつなぎ方(認知スタイル)の違いであり、③リアルタイム処理と時間差処理で得意不得意が分かれる、④時間差・プリセット化で対応できる、という整理になります。
はじめに
「わかってるのに動けない」ってどういうこと?
ASD(自閉スペクトラム症)当事者の中には、頭では理解できているのに行動が噛み合わないと感じる人がいます。
ASD当事者の私にもこの経験があります。
やるべき動作は分かっているのに体が動かない。
内容は理解しているのに返答がズレる。
その場ではピンと来ず後から「あ、そうだった」と気づく。
こうした経験は、意志や努力の問題ではなく、情報のつなぎ方が少し違うために起きている可能性があると思っています。
この記事では、
- 理解
- 文脈照合
- 行動化
のどこで止まりやすいのかを、研究と当事者経験の両方から整理します。
※個別の状況に当てはまらない場合もあります。医療判断は医師や専門家にご相談ください。
私の「線」にならない体験
これは私の感じ方ですが、部分的な情報は理解できても、時間の流れや文脈にタイミングよくつなげることが難しいと感じます。
たとえば、言葉は理解できても、表情や空気の読み方が同じタイミングでつながらない。
手順は覚えているが、次の手順の途中で何かが抜ける。
写真のコマは鮮明に見えるのに、コマ同士がスムーズにつながって動画にならないような感覚です。
この感覚を、私は「情報が線にならない」と表現しています。
研究ではどう説明されているか
ASD研究では「弱い中央性統合(Weak Central Coherence)」として知られる認知スタイルが報告されています。
これは、細部の情報に注目する一方で、全体をまとめるのが苦手という特性です。
たとえば、木は見えるが森が見えにくい。
単語は理解できても文脈がつかみにくい。
部分は正確だが全体の意図がつながりにくい、といった状態です。
ただし、これはすべてのASD当事者に当てはまるわけではなく、ASDの一部の認知傾向を説明する理論のひとつです。
最近の研究では、これは「障害」そのものというより、認知スタイルの違いとして捉えようとする議論もあります。
また、明確に指示されれば全体処理も可能とされています。
「理解できない」のではなく「つなげるのに時間がかかる」
「頭の中の理解(知識)」と「実際の行動」の間には、つなぐプロセスが必要です。
- 意味を理解する
- 場の状況と照合する
- 行動化する
私の場合、とくに2から3への接続に時間がかかります。
内容は理解しても行動に移る段階で何をすればいいかわからずに止まる。
以前に教わった通りでも状況が変わると混乱することがある。
「何をすべきか」は分かるのに、「今この場面でどう動くか」がつながらないことがあります。
つまり、前提の知識は完璧にあるけれど、今この状況でどう組み合わせて使うかに時間が必要なのだと思っています。
その場ではズレ、後から正確に気づく理由
リアルタイムの処理は苦手でも、時間をおけば断片が結びつくことがあります。
これは私自身が何度も経験してきたことです。
その場ではズレた返答をしたのに、帰り道で本当の意図に気づく。
トラブルで慌ててしまった後に「どうすればよかったか」を正確に分析できる。
仕事中に混乱したが、あとで振り返るとスッと理解できる。
こうした経験から、これは「遅い」のではなく、処理の特性が違うのかもしれないと考えています。
実行機能の特性との関係
※ここからは研究として指摘されている、一般的な傾向の話であり、個人差があります。
ASDの認知特性として、「実行機能」(計画、切り替え、複数のことを同時に進めること)に課題がみられると指摘する研究があります。
実行機能に困難があると、リアルタイムで複数の情報を統合するのが難しい。
予定外の変更に対応しにくい。
マルチタスクより一つずつ順番に処理する方が得意、といった傾向があると報告されています。
私の場合も、同時並行処理よりも、一つずつ丁寧に処理する方が合っていると感じます。
周囲には「理解してない」に見えやすい
私は、反応が遅いことで、理解してないと誤解されがちだと感じています。
しかし実際は、内部で情報をつなげる作業を進めている最中なのだと思います。
無言で固まっているのは情報をつなげている途中。
質問に即答できないのは状況を整理している最中。
後から正確に答えられるのは時間をかけて統合できたから、と思っています。
これは処理スピードの問題ではなく、処理スタイルの違いではないかと考えています。
「つなぎ目」を補う工夫
ここからは、私が実際に使っている工夫を紹介します。
リアルタイム処理が苦手でも、時間差とプリセット化で対応できることがあると感じています。
時間差
リアルタイム処理の弱さを前提に、
- 瞬時にやらず、
- ワンクッション置く、
それが意識的に時間を確保する方法です。
返答に5秒ルールを作る
会話で即答を求められる場面でも「少し考えます」を固定の言い方で確保しています。
私は、
- 「少し整理します」
- 「今考えています」
といったようなフレーズを使うことが多いです。
最初は気まずく感じましたが、実際に使ってみると、相手も待ってくれることに気づきました。
予定変更は即答しない
思いもよらない予定や急な変更を提示されたら、「一度持ち帰ります」を標準化しています。
その場で判断しようとすると、即答して後悔するケースが多いと感じていたからです。
そこで、この言い方で固定したら、即答して後悔するケースを避けられるようになりました。
プリセット化
何度も使う判断を固定化
毎回、
- 「理解」
- 「選択」
- 「行動」
のプロセスを組み立てなくて済むように、よく使うパターンを固定しています。
定型フレーズを決める
困ったときの伝え方を事前に決めておくと、リアルタイムで組み立てる負担が減ります。
私が使っているフレーズは次のようなものです。
「つまり、◯◯で合っていますか?」
本当に確認したいときや、時間を少し稼ぐために、オウム返しのように使うことがあります。
こうした言い回しをあらかじめ用意しておくことで、考える時間を確保しやすくなりました。
作業のプリセット
いつもの、
- 「朝」
- 「外出」
- 「帰宅」
- 「作業前」
など、手順を完全プリセット化しています。
たとえば、外出時の持ち物チェックを減らせるように、まとめていつもの場所におく、といった形です。
探す場所を絞ることで、毎回「何が足りないか」を考える負担が少なくなりました。
優先順位の基準表を作る
「何から手をつけるか」で止まる癖があったので、判断基準を先に作っておきました。
- 先に始める必要はあるか
- 体力は消耗するか
- 締め切りはあるか
こうした基準を事前に整理しておくと、その場で迷わずに動きやすくなると感じています。
まとめ
怠けではなく「認知スタイル」の違い
- 「動けない」は理解力の問題ではない
- 情報のつなぎ方(認知スタイル)の特徴の可能性がある
- リアルタイム処理よりあとで行う方が安定しやすい
- 時間差・プリセット化で補えることを考える
「理解しているのにできない」は、意志の弱さではないと思っています。
情報処理の仕方が違うだけであり、適切な工夫と環境があれば、十分に力を発揮できると思っています。
参考文献
- Frith, U. (1989). Autism: Explaining the Enigma. Blackwell Publishing.
- Happé, F., & Frith, U. (2006). The weak coherence account: Detail-focused cognitive style in autism spectrum disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders, 36(1), 5-25.
- Hill, E. L. (2004). Executive dysfunction in autism. Trends in Cognitive Sciences, 8(26-32).
参考になる民間・情報サイト
- 「日本自閉症協会」→「https://www.autism.or.jp/」
- 全国の家族会・当事者団体の情報、支援制度、イベント情報などがあります。
- 「発達障害ナビポータル」→「https://www.navi.go.jp/」
- 厚生労働省が監修する発達障害の総合情報サイトです。医療・福祉・教育など、信頼性の高い基礎情報が掲載されています。
- 「LITALICOライフ・発達ナビ」→「https://h-navi.jp/」
- 発達に関する体験談・コラム・支援機関の情報がある民間ポータルサイトです。
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