※本記事は当事者が個人的にまとめた解説です。また、個人的な体験や感想であり、診断・治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。診断や治療を決めるものではありません。
はじめに
ここでは WCC=Weak Central Coherence/弱い中枢性統合 という考え方を使って、ASD(自閉スペクトラム症)の情報処理の特徴をわかりやすく説明します。
WCCはASDの“原因”を断定する理論ではなく、部分から全体をとらえることが苦手な傾向を説明する仮説です。
WCC仮説とは?
一言でいうと、「細部に強く、それを全体像にまとめることが苦手」という情報処理の認知スタイルを説明する枠組みです。
- 多くの人は、入ってくる情報を全体像としてまとめて理解する。
- WCCの傾向が強いと、誤字や表記、見た目の細かい違いなど、細部には素早く気づく一方、部分が集合した、全体像へまとめる処理に困難や苦手さがある。
補足:WCCはASDの原因ではなく、細部優位/全体統合が苦手という認知スタイル(処理バイアス)を説明する枠組みです。観察される差は課題や条件で変動し、個人差も大きいことが知られています。
どんな場面で見えやすい?
- 文章を読む:誤字・数値の不整合など細部の異常を素早く見つける一方、要旨や流れを頭の中に保ち続けるのは難しくなることがある。
- 図や表:部品の形・並びには敏感だが、全体の骨組みの把握は後からになる場合がある。
- 会話・集団:場の前提や目的の切り替え(雑談→意思決定など)が反映されるまで一拍遅れることがあり、タイミングのずれとして見えることがある。
- 手順やルール:例外や“その場の空気”より、明示され一貫した規則の方が扱いやすい。
※現れ方には個人差があり、情報量・スピード・同時並行の多さなど環境要因でも変わります。
WCCは困難ではなく、特性や個性として理解されます。
簡単な比喩
- 拡大鏡と地図:”拡大鏡”(=細部に強い)で”誤記”(=文字の間違いなど)はすぐに見つける。ただし、地図のように”全体の道筋を描く作業”(=地図上の点と点を繋げる作業)は”拡大鏡”(=細部に強い)で細部しか見えておらず、苦手となる
- 机の広さ:机が狭いと”物”(情報)を同時に多くを広げにくい。狭い机なら、溢れたものは狭い机をもう1つ用意しなければならず、さらには狭い机同士は隣に置けない形をしている。
研究で使われる代表的な課題
※実施は専門家が行います。どんな性質を見たい課題なのかの紹介です。
- 隠図形課題(Embedded Figures Test):複雑な模様の中から単純な形を素早く見つける(部分探索の得意さが表れやすい)。
- ブロックデザイン(WAIS/WISC下位):見本と同じ模様を積木で再現(部分の構成力が表れやすい)。
- Navon課題(大きい文字/小さい文字):全体と部分のどちらを優先して処理するか(条件によって結果が揺れることがある)。
- 文脈で語義を選ぶ課題(ホモグラフ等):直前の文脈から語の意味を選ぶ(課題依存・個人差が大きい)。
関連する他の考え方
- EPF:知覚機能強化 — 初期の知覚処理が強い/詳細へのアクセスが高いという見方。WCCの部分優位と相性がよい。
- ToM:心の理論 — 他者の意図・信念を推測する力の視点。社会的推論に焦点があり、WCC(情報統合)とは相補的。
- EF:実行機能 — 注意の切替・抑制・作業記憶などの統制機能。WCC(局所/全体の処理の弱さ)とは別軸。
まちがえやすいポイント
Q1. 「弱い中枢性統合」=能力が低い?
A. いいえ。処理の向きの違いです。細部に強いことは、校正・品質管理・異常検知などで武器になります。
Q2. WCCはASDだけ?
A. いいえ。誰にでも程度差があります。ASDではその偏りが強く/出やすい場面が多いと考えられています。
Q3. WCCはASDの“原因”?
A. 仮説の1つです。他にもいくつか仮説があります。
Q4. 訓練で“治る”?
A. 「治す」より、情報の提示や環境設計で困りごとを減らすという発想が現実的です(例:手順を明示、情報を分割、図と文を併用)。
“強み”としての側面
WCCは弱点のラベルではありません。
細部に強いことは、誤差検出や品質チェック、データの外れ値検出、規則の整備・監査など精度が求められる場面で価値になります。
まとめ
- WCC仮説は、ASDにみられやすい「部分に強く、全体統合に弱さがある」という情報処理のスタイルを説明する枠組みです。
- 現れ方は、文章・図表・社会的文脈などで細部の検出の速さと要点化の難しさが同時に見えることにあります。
- WCCは仮説の1つ。ToM・EFなど、他の視点と併せて理解するのが現実的です。