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この記事でわかること
- ワーキングメモリ(作業記憶)とは何か
- ASD(自閉スペクトラム症)に見られるワーキングメモリの特徴
- ADHD(注意欠如・多動症)に見られるワーキングメモリの特徴
- ASDとADHDの違いを比較
※本記事は診断や治療を定めるものではありません。必要に応じて医師や専門家にご相談ください。
はじめに
この記事では、ワーキングメモリに注目して、ASDとADHDそれぞれの特徴や違いを整理し、当事者の体験を交えて解説します。
ワーキングメモリとは?
まず、「ワーキングメモリ(作業記憶、昔は作動記憶と呼ばれていた)」とは何でしょうか。
ワーキングメモリは「短時間だけ情報を頭に置いておきながら処理する力」を指します。
- 電話番号を聞いてメモを取る
- 文章を読みながら前の文脈を理解する
- 料理で複数の手順を同時に進める
こうした場面で働いているのがワーキングメモリです。
一般的に「短期記憶」と似ていますが、単に覚えるだけでなく「保持しながら使う」点が特徴です。
ASD(自閉スペクトラム症)のワーキングメモリ
特徴
- 情報を「全体として統合する」ことが苦手な傾向(弱い中枢性統合仮説など)
- 一度に保持できる容量が小さい、または「細部にかたよる」(個人差あり)
- 言語ベースか視覚ベースか、どちらかに依存しがちで、同時並行処理が難しい(個人差あり)
具体例
- 会話の内容を理解しながら、相手の表情や声のトーンも同時に把握するのが難しい傾向
- 地図を「全体」と「現在位置」、「複数の建物の位置」を同時に頭に保持するのが苦手な傾向
イメージ
- 大きめの箱(情報)が1つか2つだけしかおけず、「脳の机」が他の人より小さいイメージです。
- この大きめの箱(情報)とは、1チャンクのことで、机のみ、椅子のみ、BGMのみ、風景の背景のみなど、ひとかたまりの情報のことです。
- ASDの場合、五感を組み合わせた1チャンクが構成しづらい傾向があるかもしれません(個人差あり)。
新たに大きめの箱(1チャンク)を置こうとすると、溢れてしまうのが特徴で、逆に大きめの箱についての細部情報は、よく見えたりする(細部情報に気づきやすいという、ASDの特徴のこと)。
ADHD(注意欠如・多動症)のワーキングメモリ
特徴
- 容量そのものは保たれているが「保持を持続する力」が弱い
- 注意が外れやすく、保持していた情報がすぐ抜け落ちる
- 感情や外部刺激によっても、保持の安定性が左右されやすい
具体例
- お店で買い物リストを見て買い物していたのに、別の商品に気を取られ、買い物リストの存在を忘れてしまい、そのままレジへ行ってしまう
- 会議中、議題を聞いていたのに、途中で別の考えにとらわれて、話を聞き逃したり、忘れてしまう
イメージ
大きめの箱は「脳の机」に複数置けるが、次々とたくさん箱を置いてしまい、いつの間にか大事な箱が滑り落ちてしまう感じです。
情報を同時に処理する能力はあるのに、「安定して保持する制御」が難しいことで、結果的に同時に処理することに失敗することがあることが特徴だと思います。
ASDとADHDのワーキングメモリの違い(比較表)
観点 | ASD | ADHD |
---|---|---|
主な困難 | 統合の制限 | 維持や制御の困難 |
情報処理 | 細部に強い/同時並行が苦手 | 全体的に抜けやすい/持続しない |
典型的な体験 | 複数の要素を同時に扱えない | 覚えたのにすぐ忘れる |
背景要因 | 認知スタイル(情報処理の特性) | 注意の維持・実行機能の弱さ |
日常生活での違い
ASDの場合
- 授業中に「黒板の内容」と「先生の声」と「友達の反応」を同時に扱えず、どれか一つに集中してしまう
- 複数の手順が必要な作業を一度に処理するのが難しい
ADHDの場合
- 宿題を始めても、途中で別のことに気を取られて忘れてしまう
- 課題のゴールは理解していても、保持できずに途中で脱線する
周囲や本人にできる工夫
ASDの場合
- 手順を視覚的に見える形にする(チェックリストや目につく場所に置くなど)
- 「同時並行」ではなく「一つずつ順番に進める」やり方に切り替える
ADHDの場合
- 大事なことを繰り返し確認できるようにする(リマインダー、アラーム)
- 外部刺激を減らす環境づくり(静かな部屋、不要な通知を切るなど)
ASD当事者の気づき
私自身、忘れ物が「特定のパターン」で繰り返されるのが特徴でした。
傘や時々しか必要ないものは、家に置き忘れたり、出先に置き忘たりすることが日常茶飯事です。
雨がやんでしまうと、傘という情報が思いつかないのかもしれません。
一方で、日常的にルーチン化されているものは安定して記憶できます。
小学生のころ、時間割の準備は毎日決まった時間に行い、しっかり必要な物は鞄に入れていました。
鞄に入っていない物については、お察しください。
このような「いつもと違うパターン」での特徴は、ASDのワーキングメモリに典型的なものだと感じています。
これはADHD的な忘れ物とは少し違います。
ADHDは「持っていくつもりで用意しても抜け落ちる」ことが多いですが、私の場合は「必要性が一時的に消えると頭から外れてしまう」という感覚です。
ASDの認知スタイルによって、ADHD的な要素が再現されていると、個人的に感じています(諸説あり)。
まとめ
- ASDのワーキングメモリは「容量や統合のしづらさ」が中心
- ADHDのワーキングメモリは「保持の持続や制御の弱さ」が中心
- ASDは「複数を同時に扱うのが苦手」、ADHDは「覚えたのにすぐ忘れる」が典型
- 背景のメカニズムは異なるが、どちらも日常生活に大きな影響を与える
ワーキングメモリの問題は、ASDでもADHDでも「ただ忘れっぽい」と一括りにはできません。ASDは情報処理の「特性」、ADHDは「維持制御の弱さ」といった質的な違いがあります。
おわりに
「覚えていたはずなのに忘れてしまう」という悩みは、ASDとADHDは同じように見えても、ワーキングメモリの問題の背景は違います。
違いを知ることで、「なぜ自分はこうなのか」「どう工夫すればよいのか」が見えてきます。