この記事でわかること
- リアルタイム処理が苦手な理由
- 文字起こしが安心しやすい理由
- リアルタイムと非リアルタイムの違い
- 日常で使える工夫の例
この記事の結論としては、
リアルタイムの会話が苦手なのは能力不足ではなく、「認知スタイル」が合っていないだけかもしれない。
そして、文字起こしは、リアルタイム処理を自分に合った形に変換するための1つの道具になりうる。
といった当事者としての理解の整理になります。
はじめに
私は会話そのものが嫌いなわけではないのですが、「話を聞きながら理解して、同時に返事も考える」というリアルタイム処理になると、一気に頭の中がいっぱいいっぱいになることがあります。
一方で、書かれた文章を読んで整理する作業は比較的スムーズにできます。
同じ「情報を理解する」なのに、会話(リアルタイム)と文章(非リアルタイム)でなぜここまで差が出るのかを、ASD当事者として自分なりに整理したものが今回の記事です。
リアルタイム処理が苦手だと感じる場面
リアルタイムで処理が必要になる場面では、いくつもの処理が同時に走っていることが多いです。
実は複数の要素で成り立っている
会話のとき、頭の中ではだいたい次のようなことが同時に起きています。
- 声を聞く(入力)
- 意味を理解する(思考)
- 返答を考える(選択)
- 言葉として口に出す(発話)
これを、もう少し分解して並べると、私のイメージでは次のようになります。
- 入力する(聞く)
- 内容を理解する
- 必要な情報を頭に保持する
- 返答の内容を選ぶ
- 言葉として発話する
これらがほぼ同時進行で重なることで、「複数の処理を同時に走らせる構造になり、保持と比較が追いつかなくなる」と感じます。
これが、私が感じているリアルタイム処理の重さの正体に近いものです。
私の場合、この同時処理が重なった瞬間に、負荷が急に跳ね上がる感覚があり、
- 相手の話の理解が一歩遅れる
- 答えを考えているうちに会話が進んでしまう
- 返事をしようとしていた内容が飛んでしまう
といったことが起きやすくなります。
文脈が流れていってしまう
会話は時間とともに流れていくため、一度取りこぼすと、基本的には巻き戻しができません。
特に私は、作業中に声をかけられたときに、
- 言葉が「意味のある音」ではなく、
「ただのBGMのように聞こえてしまう」 - 「ごめん、もう一回言ってもらっていい?」と聞き返す
ということがよくあります。
また、「さっきの一文と今の一文を頭の中で横に並べて比べる」、といった処理が追いつかない感覚があり、
- 相手と自分の理解のズレ
- 話題の取り違え
が起きやすくなります。
相手のスピードに合わせる必要がある
会話のテンポは、基本的に自分ではコントロールできません。
- 話すスピードが速い人
- 話題の切り替えが急な人
と話していると、頭の中の切り替えが追いつかず、さらに負荷が上がります。
情報の切り替えが苦手な場合、どうしても「遅れが出やすい構造」になってしまうのだと感じています。
リアルタイム文字起こしがいいと感じた理由
リアルタイム処理が苦手でも、チャットや文字起こしのような形だと、
そこまで問題にならないことがあります。
当事者として考えると、ここには次のような違いがあるように感じます。
結論から言えば、文字起こしは「リアルタイムの同時処理」を
「非リアルタイムの順番処理」に変換してくれるツールとして働きます。
処理が実質一つ減る
文字でやりとりをする場合、
- 相手の話すスピード
- 自分の話すスピード
といったものに、あまり縛られなくなります。
自分のペースで
- 読む
- 考える
- 打つ(入力する)
ができるため、処理を「自分のペースに最適化できる」
のだと感じています。
私の体感では、作業中でも文字の方が相性がよく、
- 「リアルタイムで口頭説明をされるより、文字で送ってもらう方がありがたい」
と思う場面が多いです。
同じ情報でも、「耳で受け取ってすぐ返さなければいけない」状態から、「文字として受け取って、あとから自分のタイミングで返せる」状態に変わることで、実質的に同時処理の数が減り、負荷が軽くなります。
情報の順番を整えられる
会話は流れ続けますが、文字情報であれば、
- 前後の文を読み返す
- 重要な部分に印をつける
- 必要ならメモを足す
といったことが可能です。
「一列に並べて処理する」のが得意なタイプ(逐次処理が強いタイプ)にとっては、情報を自分の頭の中で並び替えやすいという点が大きな助けになります。
ここで述べている「逐次処理が強いタイプ」というのは、あくまで私自身の体感や整理のしかたであって、一般的な分類や診断名ではありません。
曖昧さが減る
音声だけの情報より、文字として残っている情報の方が、
- 聞き間違いが減る
- 細かい表現も確認できる
- あとから何度でも読み返せる
という点で、理解しやすい形だと感じます。
自分にとって「保持しやすい形」に変換されることで、処理の負荷が安定しやすくなるのだと思います。
リアルタイム処理と非リアルタイム処理の構造の違い
ここからは認知モデルとしての私の理解であり、事実の断定ではなく、あくまで「当事者としての整理」です。
リアルタイム処理(会話など)
会話のとき、頭の中では次のような処理がほぼ同時に重なっているイメージです。
- 入力する(聞く)
- 内容を理解する
- 必要な部分を保持する
- 返答の内容を選ぶ
- 発話する
このとき、保持と比較が間に合わないと、
- 話の一部だけ抜け落ちる
- 「えっと…」と返答に時間がかかる
- 話の途中で何の話だったか分からなくなる
といったことが起こりやすくなります。
ここで重要なのは、これらが「同時に」「一続きで」進んでしまう構造そのものが負荷になるという点です。
非リアルタイム処理(文字起こし・文章読解)
一方で、文字起こしや文章読解のような「非リアルタイム処理」では、次のようなことが可能になります。
- 入力をいったん止められる
- 前の情報を何度でも確認し直せる
- 必要な箇所だけ繰り返し読むことができる
- 返答までの時間を自由に調整できる
これにより、処理を順番に、直列で進めることができるため、
- 「さっきの文と今の文を比べる」
- 「情報を並べて整理する」
といった作業がしやすくなり、同時処理のエラーが起こりにくい構造になると感じています。
言い換えると、文字起こしは「リアルタイムの同時処理」を、「自分で区切れる順番処理」に変換する仕組みとして働いている、というのが私の理解です。
日常で生かせる工夫
リアルタイム処理が苦手でも、次のような工夫で負荷を下げることができるかもしれません。
会話中に「一時停止ポイント」を作る
話すスピードが速い相手とは、
- 「一文ごとに少し間をあけてもらう」
- 「大事な部分だけはゆっくりめに言ってもらう」
といった短い区切りを作ってもらうと、理解が安定しやすくなります。
自分から「ちょっとゆっくり目に話してもらえると助かります」とお願いしておくのも一つの方法です。
メモを併用する
会話の内容をいったん紙や画面に書き出すことで、頭の中だけで全部を抱え込まずにすみます。
- キーワードだけメモする
- 箇条書きで要点を書いておく
といった、簡単な外部化でも、保持の負荷はかなり下がります。
後から読める形に変換しておく
重要な話や情報は、
- 口頭だけで済ませず、メールやチャットでもらう
- 会議なら議事録や文字起こしを残してもらう
といった形にしておくと、あとから自分のペースで確認できます。
「重要なことほど文字にしてもらう」というルールは、リアルタイム処理が苦手な人にとって、大きな助けになります。
まとめ
- 会話は認知スタイルの特性が追いつかないことがある
- 文字起こしや文章は「順番に処理」に変換できる
- 文字起こしは、「自分に合う処理の形」に変えるための1つの道具
- 自分に合うスタイルを選ぶことで、トラブルやしんどさを減らせる余地がある
リアルタイムの会話が苦手なのは、必ずしも能力の問題ではなく、「認知スタイル」との相性の問題かもしれません。
自分の得意な処理の形を知っておくことで、「どうすれば生活しやすくなるか」を考えやすくなると感じています。
※当事者視点の整理ブログです。専門的判断は医師や専門家にご相談ください。

